シーボルトが、梅雨の神戸で出会ったものとは?


一昨日の記事(長崎街道嬉野湯宿の旧跡とB級スポット)で、シーボルトの著書『日本(NIPPON)』に掲載されていた、嬉野の浴場の挿絵を入れましたが、『日本』には他にも、多くの挿絵が載っていました。兵庫県神戸市でも、兵庫津と須磨寺の絵が入っています。

シーボルトは1826(文政9)年2月15日、出島を発ち、オランダ商館長に同行して、江戸へ向かいます。そして、前の記事に書いたように、大村(長崎を開港したキリシタン大名の本拠地)、彼杵(海の見える千綿駅とそのぎ茶で有名な町)、嬉野(長崎街道嬉野湯宿の旧跡とB級スポット)、柄崎(歴史が今に息づく肥前鍋島家の自治領・武雄)など、長崎街道の宿場を通り、更に下関からは船で室津(現・兵庫県たつの市)に上陸し、再び陸路を歩きます。

そして姫路、加古川、明石を通って、3月11日、兵庫に到着します。兵庫では、須磨神社に参拝、近くで名物の敦盛そばを食べたりしています。その後、生田神社に参拝して、西宮を経由して大坂へ向かいました。江戸に着いたのは4月10日、それから5月18日まで滞在して、帰路に就きます。

兵庫津

復路は、6月15日に兵庫に入り、兵庫津から下関までは船に乗ることになっていましたが、向かい風で出帆出来ず、結局、兵庫に4泊して、19日の夜、兵庫を出帆することになりました。

この6月の神戸というのが、今回のブログの伏線なんですが、その前に、個人的に気になった敦盛そばに触れておきます。

まず須磨寺ですが、これは通称で、正式には上野山福祥寺といいます。須磨は、『源氏物語』に「須磨」の巻があるように、古くから知られており、平安時代前期の886(仁和2)年に建立された寺も、昔から通称で親しまれてきたようです。須磨寺は、源平合戦で「一ノ谷の戦い」が行われた際、源氏の大将源義経の陣地であったと伝えられています。

須磨寺

一ノ谷の戦いは、義経による「ひよどり越えの逆落とし」の奇襲で有名ですが、この合戦で、平清盛の甥・敦盛(16歳)は、源氏方の武将・熊谷直実に討ち取られます。「祇園精舎の鐘の声……」の書き出しで知られる『平家物語』の中で最も有名な逸話、巻第九「敦盛最期」の場面ですね。

須磨寺に残る「義経腰掛の松」は、熊谷直実が討ち取った敦盛の首を、義経が検分する際に腰を掛けた松と伝えられています。その後、須磨寺には敦盛の首塚が祀られ、敦盛の菩提寺として知られるようになりました。

一方、須磨浦公園にある敦盛塚には、敦盛の供養のために建てられたという大きな五輪塔もあります。シーボルトは、こちらも訪れており、同行の絵師・川原慶賀が、敦盛塚の絵を描いています。

で、この塚の横に、「そば処 敦盛そば」があり、例の敦盛そばを食べることが出来るそうです。もっとも、シーボルトが食べた「敦盛そば」は、「蕎麦より作れる饂飩」とのことで、うどんだったのか、そばだったのか判然としませんが・・・。

さて、そのシーボルトですが、『日本』で日本の風物などを世界に発信しただけではなく、『日本植物誌』を著し、日本の植物も紹介しました。その中で、シーボルトは、初めて出合った日本のアジサイをことのほか愛し、彼が「オタクサ(おたきさん)」と呼んでいた出島の遊女・楠本たきにちなんで、「ハイドランジア・オタクサ」の名で著書に掲載しました(※シーボルトとたきの間に生まれた娘・イネは、父と同じ医師の道を志し、日本初の女性産科医となっています)。

アジサイには、シーボルトが命名する以前に、「ハイドランジア・マクロフィラ」という学名が付いていたので、「オタクサ」の名は残りませんでしたが、シーボルトは、よほどアジサイが気に入ったようで、『日本植物誌』に十数種類を載せています。その中に、現在「シチダンカ」の名で知られるアジサイも入っていました。ただ、日本では、誰も実物を見たことがなく、標本もなかったことから、長く「幻の花」と言われてきました。

シチダンカ

それが、シーボルトの帰国から130年が経った1959(昭和34)年、六甲山で偶然に発見されたのです。六甲山は、アジサイの山とも言われ、中腹にある神戸市立森林植物園には、約350品種5万株のアジサイがあります。シチダンカはその後、この森林植物園が長年、挿し木による増殖に取り組んだ結果、全国の公園や植物園でも見られるようになったとのことです。

私も、神戸のDHさんに案内してもらって森林植物園を訪問。シチダンカも見られましたし、シチダンカと同じヤマアジサイの一種「コウベイチゴウ(神戸一号)」にお目に掛かることも出来ました。

コウベイチゴウ

ちなみに神戸市の花は、アジサイだそうです。シーボルトが、6月の神戸に4泊もしたことを考えると、神戸でさまざまなアジサイに出会っていたのかもしれませんね。

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