民謡のある風景 - 潮風に三味の音流れる水戸三浜(茨城県 磯節)
栃木の北に発した那珂川は、茨城へ出て太平洋に注ぎます。 茨城県44市町村のうち、太平洋に向かい合うのは7市1町1村。大なり小なり、海との関わりの中で暮らしてきました。那珂川は、この長い海岸線の中央辺りで海と出合います。 この川の河口には、昔から水戸の三浜と言われてきた港が並んでいます。那珂湊、平磯、磯浜がそれで、いずれも、太平洋の荒波にもまれてきました。中でも那珂湊は、港としての歴史も古く、江戸期、奥州の大名たちは、ここから川伝いに江戸へ物資を運んだといいます。また、大洗にある磯前神社は、1170年近く前に建てられた古社で、海との長いつながりをうかがわせ、ここの港も桃山時代の頃から賑わっていました。 この地方に海にゆかりの唄が伝わっているのは、むしろ当然で、その名もずばり『磯節』と名付けられています。 ♪磯で名所は 大洗さまよ 松が見えます ほのぼのと 松がネ 見えます イソー ほのぼのと この唄は、三陸から常陸にかけての海岸で唄われていたものが元になっていて、江戸期に花街で整えられ、座敷唄として広まり出しました。大正の初めにはレコード化もされたといいます。 この『磯節』を得意としたのが、目の不自由だった関根安中という男です。元船方だった関根は、角力の常陸山に美声を愛され、相撲巡業と共に全国を回り、唄もまた全国に広まりました。東京でも、1895(明治28)年頃に流行し、1925(大正14)年には、関根自身が、設立間もないNHKからラジオ放送もしたといいます。 太平洋の波にもまれた舟唄が、今ではすっかり三味に合い、銚子の『大漁節』と並び、関東を代表する民謡となりましたが、曲調はやはり、潮風がよく似合います。