長田のB級グルメ群。そばめし、ぼったこ、みかん水

神戸市の花・あじさい

旭川で塩ホルモン(「塩ホルモン発祥の地、道北・旭川グルメ旅」)を食べてから1年ほど経ったある日、その時の面子が、神戸で顔をそろえました。カメラマンの田中さんとライターの砂山さんは富山、私は下関で、それぞれ取材を終え、神戸での取材のため合流。これに、神戸が地元のDHさんと、その先輩・のりちゃんさんを加え、北野でスタバ・ミーティングを行いました。

北野のスターバックスは、1907(明治40)年に建てられた木造2階建ての建物で、国の登録有形文化財に指定されています。更に店内は、アンティーク調の家具で統一され、なかなかどうして優雅なカフェタイムを過ごせました。

ところで、この時の神戸取材に当たって、田中さん、砂山さんと私は、綿密に打ち合わせを重ねました。ただし、綿密だったのは、ディープな神戸探訪の件でしたが・・・。


そして取材後、我々が速攻向かったのは、長田区の駒ケ林でした。目的は、西神戸センター街にある、お好み焼き「ゆき」のそばめし&ぼったこ。

地下鉄駒ケ林駅上は、DHさんとの共通の友人・THさんの会社と聞き、電話を入れてみました。しかし、残念ながらその日は定休日ということで、お会いすることは出来ませんでした。で、歩いているうち、シャッターを下ろしている店が結構多いことに気づきました。居酒屋も定休日になっています。この辺りで私、非常にいや〜な予感が・・・。

しかも、そのいや〜な予感は的中してしまいます。「ゆき」も定休日になっていました。そうなると急にお腹が空き始め、周囲を探索。そのうち、とってもディープな一角を見つけました。


「丸五市場」です。中に入ると、何となくアジアン・テイストな空気感。店先の鉄板で、牛すじやホルモンを焼いている店。「どんぶり かれーあじ」「どんぶり しょうゆあじ」とメニューを書いた看板を掲げる店(いったい何丼だあ!)。

すると、更に発見。「丸五丼」。ウナギの蒲焼きにマグロのヅケ、焼き鳥、カルビになぜか漬け物までのっかって・・・。丸五市場が誇る5品を集めた丼だそうな。

むむっ! これは逃せないのではないか! 我々3人、等しく色めき立ったものの、よくよく見ると、毎月5の付く日限定と書いてあります。今日は何日だっけ? とお互いに聞くものの、瞬時に日にちが思い浮かばないほどの焦りよう・・・。

が、少し冷静になったところで、ここはひとつ原点に立ち返り、そばめしで、と元祖そばめしの店「青森」を探すことに。そして西神戸センター街から1本北側の通りで、「青森」を発見。こちらは定休日は火曜日らしく、ようやく待望のそばめしにありつくことが出来ました。

青森すじそばめし焼

長田は、かつて町工場がたくさんあり、昼時には、工場で働く大勢の人たちが、昼食のために外へ出て来ました。特に、粉もん関係は大人気。そんな中、「青森」で焼きそばを注文したある工員さんが、冷めてしまった弁当のご飯を、焼きそばに混ぜてほしいと注文したのが、そばめし誕生の瞬間とされています。

発祥の店「青森」のそばめしは、ご飯と細かく刻んだ焼きそばに、キャベツ、かつお節、天かすを混ぜ、これに牛すじ肉とこんにゃくを甘辛く煮込んだ「すじこん」を入れて焼き上げます。我々が注文したのは、基本のすじそばめしに、すじオムレツ、すじ焼、たこそばでした。なお、メニューでは、「すじそばめし焼」と、「焼」が入っていましたが、ほぼ全てのメニューが「〜焼」となっており、普通の焼きそばも、こちらでは「そば焼」の表示でした。

我々が「青森」にいた時、カウンターでは、学生とおぼしき若い衆が、すじそばめしを食べながら、スコールという飲み物を飲んでいました。う〜ん、ますますディープ。だって、あなたスコールですよ。その他にもりんご味ではない「アップル」なるジュースらしき飲み物など、よそモンの気を引く物件が多数ありました。

肝心のすじそばめしは、事前調査での神戸っ子の評価は、あまりいいものではありませんでしたが、それなりにおいしい超炭水化物系の食事でした。ただ、残念ながら「青森」にはぼったこがなく、これはもしや「ゆき」のオリジナル? と一同少なからず落胆したのでありました。


ちなみに、丸五市場は、1932年に、周辺にあった五つの市場を統合して誕生したそうです。最盛期には、130以上の店舗があったようですが、後継者不足や阪神・淡路大震災などから減少し続け、我々が行った時には、だいぶ少なくなっていました。で、「丸五丼」とは、西村川魚店のうなぎの蒲焼、平田鮮魚店の本マグロ漬け、西村鶏肉店の備長炭炭火焼鶏、マルヨネの国産牛肉カルビ、田中漬物店の白菜浅漬けの5種盛りとのこと。今も、あるんでしょうか。

また、りんご味ではない「アップル」ですが、丸五市場に置いてあったパンフレットに「アップルという名ですが、りんごの味はしませんので、ご注意ください」と書いてありました。しかもこれ、アップルのくせに「みかん水」なんだそうです。

その上、驚くことに、みかん水「アップル」は、長田のお好み焼き屋や銭湯には、たいてい置いてあるというのです。「そばめし」が、長田のソウルフードなら、「アップル」は、長田のソウル飲料みたいな存在なのでしょうか。

お好み焼ゆき
その「アップル」を製造しているメーカーは、兵庫鉱泉所という会社です。で、兵庫鉱泉所では他にも、マスコット(レモンサワー)、シャンペン(サイダー)などの飲料水を作っており、マスコットで割るチューハイなんてのも、彼の地では飲まれている模様です。長田のホッピー的な感じですかね。

さて、「青森」来訪から半年ほどして、今度は地元・THさんの案内で、DHさん、のりちゃん先輩と共に、「ゆき」を訪問しました。同じ神戸でも、のりちゃん先輩やDHさんは、あまり行かない地域だったようで、お二人も珍しそうな風情でした。

「ゆき」については事前に、長田がホームの女性KKさんから、「娘さんとおっちゃんの講釈がめんどくさい」と聞いていました。我々が店にいる間にも、すじが苦手と話していた女性客には、おっちゃんが「うちのすじはね・・・」と、青すじ立てて講釈たらたら。また、箸を出した男性客には「いきなり箸を出さないように!」と娘がイエローカード。基本、テコで食べるものだそうです。それを聞いて私、最後に頼んだちゃんぽんオムソバまで、がんばって全てテコで食べました。

ぼったこ
そうそう、「ゆき」と言えば、「ぼったこ」でしたね。よく、神戸では「すじこん」のことを「ぼっかけ」と言うなどと聞きますが、実際には、すじこんはあくまでもすじこんです。「ぼっかけ」というのは、うどんなどに牛すじを「ぶっかける」がなまったものだそうで、「ぼっかけ」がメジャーになったのは、近年のB級グルメブームがきっかけとか。

2002年に長田で食のイベントが開催された際、目玉企画として「ぼっかけ」メニューに注目。「ぼっかけ」を前面に押し出し、レトルトぼっかけを作ったり、ぼっかけメニューを提供する店を記した地図を作成したりして、まちおこしを図りました。そしてこれ以降、「ぼっかけ」がメジャーな存在になったというわけです。

「ゆき」の「ぼったこ」は、「ぼっかけ=すじこん」が入った、たこ焼きが、だし汁の入ったお椀に盛られてきます。明石の「玉子焼き」風ですが、ちょっと上品な趣がある玉子焼きに比べ、こちらは正真正銘のB級。なんせ、名前が「ぼったこ」ですから。

なお、KKさんによると、「ゆきさんのピザ焼がおいしい!」そうです。次回、機会があったら、「ピザ焼」までいってみたいと思っています。

 ◆

この長田は、1995年1月17日の阪神・淡路大震災では、大規模火災に見舞われるなど、甚大な被害がありました。私は震災後、1週間ぐらい経って、神戸に入りました。当時、阪神電車が東灘区の青木まで開通していました。神戸から近くても、大阪はそれほど大きな被害はなさそうでしたが、西宮を過ぎた辺りから、車窓の風景が一変。その光景は、あまりにすさまじく、自分の顔が引きつってくるのが分かりました。

取材初日は、東灘区を中心に歩きましたが、あまりのことに、カメラを出すことさえ出来ませんでした。結局、震災の10年以上前から親しくして頂いていた、神戸と西宮の知人をお見舞いがてら訪ね、お話を伺いました。

阪神・淡路大震災 JR本山駅前

神戸の知人TAさんは、自宅が、六甲山地の堅い岩盤の上に建っていて、被害は軽かったため、経営する印刷会社がある東灘区岡本へ駆けつけたそうです。会社は、JR摂津本山駅の北口近くにあり、辺り一帯の建物は無残に倒れ、会社のあったビルも全壊していました。ただ、手前の2軒の家が折り重なるようにしてつぶれて道を塞いでいたため、近づいて確認することも出来なかったとのこと。

一方の西宮の知人Iさんは、地震でドーンと上に持ち上げられ、体が浮いた時、ピリピリと家のきしむ音を聞いたそうです。結局、自宅は無事でしたが、裏の会社倉庫は全壊してしまいました。この方とは、甲子園都ホテル(現ホテルヒューイット甲子園)でお会いし、甲子園都ホテルのラウンジで、ただ一つメニューにのっていたカレーライスを一緒に食べたのが、今も思い出となっています。

ISさんは、地震の後、市内に住む子どもたちにすぐ電話を入れましたが、電話は全く通じませんでした。やがて子どもたちが駆けつけてきて、全員が無事でほっとしていた時、突然通じなかったはずの電話が鳴りました。国際電話でした。それは、韓国の友人からだったそうです。「Iさん、だいじょうぶか。ぼく、すぐそっちへいくよ」。ISさんは、慌てました。被害の状況も何も全く分からないし、今の状態で来てもらっても、対応が出来ません。とりあえず礼を述べて断りましたが、それっきり電話はまた通じなくなりました。

阪神淡路大震災 長田区鷹取空撮

そんなISさんの計らいで、西宮から神戸にかけて、ヘリコプターから被害状況を確認する機会を与えてもらいました。正直言うと、高い所は嫌いなんですが、せっかっくのご好意なので、同乗させてもらい、被災地を空撮しました。このブログで書いた、長田上空も飛んだので、その写真を入れておきます。手前が、阪神高速道路で奥がJR神戸線、阪神高速が落ちている個所は大橋九丁目交差点です。

コメント

  1. 二年ほど前に久しぶりに「ゆき」に行きました。ご主人は病気になったのか物静かになっていましたが、娘さんはさらに饒舌になってました。

    もちろんテコで食べたのは言うまでもありません(笑)

    摂津本山駅前と読める交差点の表示ですが、これって、どこ?山手幹線という広い道でしょうか? ずっと奥に億ションが写っているような気がしますが、地元民にはこの変わり果てた景色は心が痛みます。

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  2. この時期、「ゆき」も「青森」も大変でしょうね。家賃がかからない、ご自宅を店舗にしているのであれば、少しはましでしょうけど・・・。

    JR本山駅前の交差点は、阪神から歩いて行ったので、南口だと思います。ただ、Tさんの会社にも行ったはずなので、北口に出て、阪急方面にも行ったのかなあ。

    何度か行っているんで、いくつかの記憶が重なってしまっているかもしれません。

    返信削除
    返信
    1. 摂津本山駅の南側の交差点ですね。

      削除
    2. よく考えたら、初日はカメラを出せなかったので、最初に岡本にあったTさんの事務所へ行き、その近くでTさんにお会いし、その後、甲子園都ホテルでIさんにお会いしたという流れだと思います。この写真は、結果的にロケハンのようになり、土地勘が出来た本山駅周辺を取材して回っていた時のものだと思います。

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