福岡で知らない人はいない150年の老舗「吉塚うなぎ屋」
おいしい食べ物を逃した経験は、結構、記憶に残るようで、高鍋の天然カキの場合は、13年もの間、待ち焦がれていたほどです(苦節13年、豊かな森と日向灘の荒波が育てる高鍋の天然かき)。なので、この時の会話も、私の脳裏に刻まれ、福岡に行く度に思い出すことになりました。
そしてついに、それが実現する日がきました。以前のブログ(レトロエリアやベイエリア、いろいろな顔を持つ福岡)にも書いた、ある国際会議を取材した時のことです。しかも、会議の参加者には友人もたくさんおり、彼らと一緒に、その店「吉塚うなぎ屋」を訪問しました。
「吉塚うなぎ屋」は、福岡の人で知らない人はいないと言われるほどの店だそうです。創業は、昨日のブログに書いた「つきじ宮川本廛」(創業130年の老舗うなぎ店「つきじ宮川本廛」)より、20年古い1873(明治6)年。今は中洲にありますが、創業地は博多駅の北にある吉塚だったので、「吉塚うなぎ屋」を名乗りました。
熊本のTTさんが、関東のうなぎとは違うというので、関西風なのかと思いきや、そこに店独自の焼き方によって、表面はカリっとしつつ、ふっくらとした蒲焼きに仕上がっています。焼きの際、「吉塚」独自の「こなし」という技を加えているからだそうです。
うなぎの蒲焼きは、関東と関西で、開き方と焼き方に違いがあるとされます。開き方は、関東が背開き、関西が腹開きになります。関東は武家文化で、腹開きは切腹をイメージするので敬遠された、関西は商人文化で、腹を割って話をするので腹開きが好まれた、などと言われます。また、焼き方は、関東が蒸し焼き、関西が直火焼きです。更には、焼く時の串も関東は竹串ですが、関西は金串を使うようです。知らんけど・・・。
しかし、切腹だとか、腹を割って話すとか、うなぎのさばき方に、いちいちそんなことを考えたとも思えず、単なるこじつけなんじゃないですかね。実のところ、あらかじめ蒸しておくことで焼き時間を短くしたり、蒸すためには身が崩れにくい背開きの方がいいとか、単に作業効率の問題で、江戸前のうなぎも関西風だったのが、徐々に改良され、関東風が生まれたのかもしれません。
京都生まれ京都育ちの北大路魯山人は、「鰻の話」の中で、自分は京阪に詳しい上、東京に暮らして東京のことも知っているから、えこひいきがない。うなぎの焼き方についても、東京だ大阪だと片意地は言わない、としながら、文末で、「うなぎの焼き方であるが、地方の直焼、東京の蒸し焼き、これは一も二もなく東京の蒸し焼きがよい」と書いています。その一方、「鱧・穴子・鰻の茶漬け」で、茶漬けの中で最もうまいものの一つは、はもの茶漬けだが、東京近海で獲れるはもは、肉がベタベタして話にならない。その代用というのも当たらないかもしれないが、あなごとか、うなぎとかが同じ用に役立つとして、「本来は江戸前風に蒸しにかけないで、関西風に直に焼くがいい。醤油のたれを甘くしないで、直焼きにしたものの方が茶漬けには適する」と、お茶漬けなら関西風だと書いています。
よく、関西の人が、「江戸前は柔らかいばかりで味がしない」と言えば、関東の人も、「関西風は硬くて脂ギトギト」なんぞと言ったりする、という文章を目にします。が、実のところ、ちゃんと調理したうなぎ屋の蒲焼きなら、どちらもおいしいと思う私です。
で、「吉塚」は、開きと串打ちは関西風ながら、焼きの工程で「こなし」という技法を使うわけです。「吉塚うなぎ屋」サイトには、「鰻を焼きながら、もみ・たたく『こなし』を行うことで、鰻からにじみ出た脂で表面がムラなく焼き上がり、鰻そのものもふっくらといたします」と書かれています。
「もみ・たたく」というと、なんだか肩たたきみたいですが、要は、うなぎを折り曲げるようにもみ込みながら焼く技らしく、これによって、身はふっくら、皮はパリッと仕上がるということのようです。
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