高千穂の伝統食・こびるにかっぽ酒、そして蘇食
「天孫降臨神話に彩られた神々の里」と「国見ケ丘から雲海に覆われた天孫降臨の地を望む」という二つの記事を書いた高千穂を取材した際、ホテル四季見という宿にお世話になりました。このホテルは、本館と離れから成っており、私が泊まったのは離れでした。
基本的に、客室は和室になっており、本館は8畳の和室が9室、12畳の和室が1室あるようです。私が泊まった離れは、6畳の和室に4畳半の次の間、それに踏み込み2畳という部屋構成でした。6室ある離れは、だいたいこの構成ですが、1室は6畳間が和洋室でツインのベッド、あと1室は6畳と9畳の和室に踏み込み2畳と、やや広くなっているみたいです。
これまで何度か書いていますが、私、日本旅館やペンションなどのおしきせの夕食はあまり好きではないので、基本、1泊朝食付きにして、夕食はほとんど外で食べています。しかし、高千穂では、夜神楽を見に行く都合もあって、夕食もホテルで取りました。
で、ホテル四季見は、宿以外にも神楽宿という食事処も経営しており、そこで出している「蘇食物語」とほぼ同じ料理が提供されています。宿によると、「蘇食の蘇は、蘇生する、蘇るの蘇で薬膳の意」で、宮崎の名産品やこの地高千穂に昔から伝わるお料理や食材を現代に蘇らせた食事とのこと。
2年ほど前にSNSで話題になった「蘇」という古代食があります。蘇が、どのような食べ物だったのかは、明確には分かっていませんが、日本や中国の文献などから、チーズやヨーグルト、あるいはバターや練乳といった説が唱えられています。
平安時代の医学書 『医心方』によると、蘇は「全身の衰弱をおぎない、大腸をよくし、口の中の潰瘍を治療する」などとされ、いわゆる健康食と考えられていたようです。もともと、飛鳥時代に唐から伝わった薬には、生薬などの他に、栄養価の高い食材を使った料理なども含まれていました。それらは、今も薬膳料理として食べられており、蘇は、その代表的な食材と言えるのかもしれません。
ホテル四季見の夕食で提供される「高千穂蘇食」は、高千穂が発祥と言われる「かっぽ酒」からスタートします。山仕事の合間に、手近な青竹を切って節を抜き、水を入れて焚き火にくべ、お茶を沸かして飲んだことが始まりとされ、やがて生活の場にも入り込み、中身はお酒に代わり、神事などで飲まれるようになりました。
肝心の料理はというと、古代黒米うどんや刺身蒟蒻、虹鱒の唐揚げ、高千穂牛、秘伝の油味噌、とうきび御飯など、高千穂地方の伝統食、郷土食が並びます。その中でも、目を引くのが、苫屋(とまや)を器に見立てた夜神楽煮〆でしょう。
苫というのは、菅や茅などを編んだむしろで、苫屋は、それを屋根にふいた小屋のことです。で、苫ぶき屋根を取ると、中にタケノコやサトイモなどの煮しめが入っています。個人的には、自分の好きなものを注文して食べる方が好みですが、たまには、こういう郷土色豊かな食事もいいですね。
ちなみに朝食も、身体に優しい無添加食材を取り入れて、高千穂らしさを出したものが提供されました。そして、朝食を済ませて出発しようとしたら、宿の方から渡されたものがありました。いわゆる「こびる」です。
かつて高千穂では、田植え時期になると、田んぼのあちこちから「こびるにしよう」という声が聞こえてきたそうです。「こびる」は、漢字で「小昼」と書き、朝食と昼食、昼食と夕食の間に食べる軽食のことを言います。昔は田植えや山仕事など、朝早くから日が落ちるまで外で働きました。そうした重労働の中、「こびる」の時間は待ち遠しい一時だったに違いありません。
最近では、そんな光景も少なくなったようですが、その一方で、地域の食文化を伝えていこうという動きも出てきています。岩戸地区にある「こびるカフェ 千人の蔵」もその一つ。メニューは高千穂こびる研究会が中心となって開発し、地域の食材を使った料理で来客をもてなしています。
私が泊まったホテル四季見だけではなく、他にも、いくつかの宿で同じようなサービスをしているらしいです。こんなところにも、「こびる」の習慣が生きているのかもしれません。
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