伊賀忍者の古里は俳聖・芭蕉生誕の地
伊賀市は、三重県北西部、滋賀、京都、奈良と境を接し、大阪と名古屋のほぼ中間にあります。小京都の一つに数えられ、石垣の高さ日本一といわれる伊賀上野城をシンボルとした城下町です。市内には、瓦屋根の低い家並や狭い街路、また寺町や紺屋町、忍町といった町名が残り、往時の面影を伝えています。
以前の記事(自然豊かな伊賀の隠れ里 - 名張)にも書いたんですが、「伊賀」という言葉を聞いて、まず思い浮かべるのは忍者でしょう。伊賀市もそれは先刻承知の事案で、2017年2月22日(忍者の日)には、「忍者市」宣言をしています。その宣言文は次の通りです。
「私たち伊賀市民は、伊賀市が忍者発祥の地であることを認識し、忍者の歴史文化や精神を継承するとともに、忍者を活かした観光誘客やまちづくりを行うことを目指して、ここに『忍者市』を宣言します」
そんな忍者市だけに、市内には忍者をモチーフにしたあれやこれやがあふれています。JR関西本線の伊賀上野駅と近鉄大阪線の伊賀神戸駅を結ぶ伊賀鉄道伊賀線は、3編成の忍者列車が運行。中心の上野市駅は、愛称・忍者市駅で、駅舎には「上野市駅」の表示よりデカデカと「忍者市駅」の文字が掲げられています。
また市内には、忍者の衣装をレンタル出来る「忍者変身処」が、上野公園横のだんじり会館を始め数カ所あり、忍者装束で市内を歩く観光客も少なくありません。この他、忍者ちらし寿司(末廣寿司)や忍者うどん(ニカク食堂)、忍者パフェ(むらい萬香園)、忍ジャーエール(大田酒造)など、忍者にちなんだグルメもあり、中には「百地」「半蔵」「影丸」「くノ一」などのコース料理がメインの忍法帖料理(藤一水)もあって、市を上げて忍者推しの伊賀市です。
このように、伊賀で真っ先に思い浮かぶのは忍者ですが、伊賀市となると、忍者は決してイコールではありません。まず、伊賀市は、俳聖松尾芭蕉の生誕地です。また、伊賀上野藩の城下町であり、京都・奈良や伊勢を結ぶ奈良街道・伊賀街道・初瀬街道が通る交通の要衝であり、特産の伊賀組紐や、地ビール元年と呼ばれる1995年誕生のモクモクビールなどもある、話題目白押しの町なのです。
「俳聖」として世界的に知られ、日本史上最高の俳諧師と言われる松尾芭蕉は1644年、現在の三重県伊賀市で生まれました。出生日は不明なため、元号での生年は途中で改元があった寛永21年か正保元年か分かりません。また、芭蕉の出生前後に松尾家は引っ越しをしており、引っ越しと芭蕉誕生のどちらが先だったかも不明で、出生地は赤坂説と柘植説の二つがあります。以前は上野市赤坂町と伊賀町柘植という別自治体でしたが、2004年の市町村合併により、現在はどちらも伊賀市となっています。
父・与左衛門は、柘植村の松尾氏の出、母は、藤堂家に従って伊予宇和島から伊賀名張に移住した桃地(百地)氏の出と伝えられます。名張の百地氏というと、伊賀忍者の祖とも言われる百地三太夫がいますが、愛媛県西予市にある百地一族の末裔の墓には三太夫と同じ「七曜星に二枚矢羽根」の紋が刻まれているということで、伊賀と伊予はつながっているのかもしれません。また、百地一族の血が入っているとされることが、芭蕉忍者説の根拠の一つとの主張もあるようです。
それはさておき、現在も、伊賀市には芭蕉が29歳まで過ごした松尾家の実家があり、処女句集「貝おほひ」を執筆した離れ・釣月軒も残っています。この他、1942(昭和17)年に、生誕300年を記念して上野公園に建立された「俳聖殿」や、芭蕉直筆の「たび人と我名よばれむ初しぐら」の色紙や遺言状などが展示されている「芭蕉翁記念館」、更には芭蕉にまつわる文学碑や句碑も多く、芭蕉をターゲットにした旅もお勧めです。伊賀組紐は、手組みの帯締めのおよそ90%を占める伊賀市の特産です。組紐は、古くから神仏具や甲冑、刀などに用いられてきました。かつては、京都や江戸を中心に、各地で広く作られていたと考えられています。しかし、明治維新の廃刀令によって組紐の需要は激減。それを救ったのが、今では和装に欠かせない帯締めです。
組紐と言えば、まず帯締めを思い浮かべますが、その歴史は意外に新しく、江戸末期だそうです。江戸・亀戸天神の太鼓橋の渡り初めに、粋で知られた深川芸者が、組紐の帯締めで留めたお太鼓結びで登場。これが評判になって帯締めが普及したといいます。
一方、地ビールは、1994年の規制緩和により各地で製造免許取得の動きが相次ぎましたが、伊賀のモクモクビールもその一つです。造っているのは、県下屈指の養豚地域である阿山地区の農家が、共同出資して設立した「伊賀の里モクモク手づくりファーム」です。ファームは「元気な農業が自然と人の健康を守る」をコンセプトにしており、地ビールも地場農産物の加工食品の一つとしてとらえています。そのため、原料を輸入に頼る他の国産ビールとは一線を画し、自家製の大麦を使った麦芽づくりからスタート。また、本来ビールが持つ栄養価を失わないように、澄んだ色合いを出したり保存期間を延ばしたりするためのろ過工程がないなど、モクモクビールは自然農業派のこだわりビールとなっています。
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