鶏肉じゃない「やきとり」で室蘭の町を元気に


室蘭市が発行している広報誌『広報むろらん』の2001年9月号に、「”焼き鳥”で室蘭をアピール」と題し、次のような記事が掲載されました。

「最近、市内外で注目を集めている室蘭の焼き鳥。この焼き鳥で室蘭のまちおこしを、と考えている団体がある。室蘭中央ライオンズクラブだ。(中略)

同クラブでは、この焼き鳥に注目。今後1年間、重点的に焼き鳥をアピールしていこうと、今年7月『焼き鳥委員会』を立ち上げた。

市民には焼き鳥を室蘭独自の食文化として、より一層愛着を持ってもらう。市外の人にはそのおいしさを売り込み、まちの活性化とまちづくりに役立てるのが狙い(後略)」

ここで、基本的なことを押さえておかないといけないのですが、「室蘭やきとり」は鶏ではありません。豚です。豚なのに、なぜ「やきとり」か、という疑問はひとまずおいて、「室蘭やきとり」と言えば、豚肉、タマネギ、洋がらし、がお決まりです。鶏肉、長ネギ、七味唐辛子の一般的な焼き鳥とは大いに趣を異にしています。さて、「室蘭やきとり」の基礎知識を得たところで、続きにまいりましょう。


実は、この記事の前に、『広報むろらん』は2000年11月号で、「やきとりを探る」という特集を組みました。それは、なぜ室蘭独特の「やきとり」が生まれ、定着したかを探る企画でした。ルーツ自体は諸説があって、定かではないのですが、この企画が室蘭中央ライオンズクラブに活動のヒントを与えました。

1909(明治42)年に初めて溶鉱炉に火がともって以来、室蘭は鉄鋼の町として繁栄。最盛期には人口16万人を超えていました。この頃、室蘭の街は活気にあふれ、鉄鋼労働者を中心に繁華街は夜中までにぎわいました。

そして、こうした労働者の胃袋を満たしていたのが「やきとり」です。新日鐵の工場があった輪西には、ずらーっと「やきとり」の屋台が並んでいたといいます。

しかし、そんな室蘭も、鉄冷えと共に人口が減り続け、『広報むろらん』の記事が出た2000年頃は10万人に。道内の人たちからは、「寂しい街」というイメージで見られるようになってしまいました。

室蘭やきとり 鳥辰

そんなイメージを吹き飛ばし、市民に元気を与えたい。かつては肩が触れ合うほどのにぎわいを見せ、今はネコも歩かない、日本一寂れた商店街と言われる室蘭に、再び活気を取り戻したい。室蘭中央ライオンズクラブの「やきとり委員会」は、そんな気持ちから発足しました。

今まで当たり前と思っていた室蘭の「やきとり」が、広報誌の特集により、実は室蘭独特の味だと知ったことで、「やきとり」を一つのとっかかりにしようと思い立ったのです。「やきとり」という独特の食文化を通して、室蘭の良さを再認識してもらおう。ライオンズの会員たちはまず、市内の飲食店を回り、「やきとり」をメニューに載せている店をリストアップしました。その結果、何と92軒もの店が、「やきとり」を出していることが判明。人口1万人当たり8.8軒という驚異的数字でした。

室蘭やきとり
この数字に力を得て、室蘭中央ライオンズクラブは、次々とユニークな企画を打ち出します。手始めは、「やきとり」の写真を印刷した「やきとり名刺」。続いて、市内の「やきとり」店店主を招いての「やきとり懇談会」。パーティー等でメニューに「やきとり」を加える「やきとり一品運動」の展開。会員による「やきとり弁当」試食会や、ゆうパックふるさと小包に「室蘭やきとり」を加えてもらうための試食会を開催。更には、市民の意見を聞く「室蘭やきとり旨いんでない会」を開いて、やきとり弁当を試食。この会には100人が参加し、「むろらんやきとりソング」も発表しました。

ゆうパックはその後、東室蘭郵便局とタイアップ、試作品を20人に郵送し、アンケートを取りました。結果はなかなか好評で、ついに2001年11月1日、「やきとりゆうパック」の発売が開始されました。これはスタートから注文が殺到、一時は発送が注文に追いつかない状況でしたが、当初は「鳥辰本店」1軒だった協力店が、翌月から「やきとりの一平本店」が参入し2軒に増えたことで、順調に注文をさばけるようになりました。

その後も、「室蘭やきとり」のロゴとイラストを製作、ワッペンシールを市内90店に配布すると共に、ロイヤリティーなしで自由に使用出来るようにしました。発足から半年後の12月には地元選出の国会議員を始め4人に「やきとり大使」を委嘱するなど、怒濤の攻勢。

その結果、これら一連の活動が、そのつど新聞やテレビで大きく取り上げられるようになり、「室蘭やきとり」は市民だけでなく、道内各地にも大きな反響を呼び起こしました。何しろ、2001年の西胆振地方十大ニュースでは、狂牛病、アメリカ同時多発テロを抑え、「室蘭やきとり」が何と2位になってしまったほど。

この「室蘭やきとり」のブレイクから5年近く経った2006年2月、青森県八戸市で第1回B-1グランプリが開催されました。これは、ご当地グルメで町おこしを目指すイベントで、10団体が参加。グランプリは、「室蘭やきとり」とほぼ同時期に、町おこしのために「富士宮やきそば学会」を立ち上げた静岡県富士宮市の「富士宮焼きそば」で、この時、「室蘭やきとり」も参戦し、第3位になりました。ちなみに、第2位は横手焼きそば(秋田県横手市)で、他に、これまでブログで取り上げた「青森おでん」と「久留米やきとり」も第1回大会に参加していました。 

なお、豚肉、タマネギ、洋がらしがそろって初めて「室蘭やきとり」になるわけですが、基本はタレ味で、各店オリジナルの「秘伝のタレ」を持っており、食べ比べてみるのも楽しいです。室蘭の観光情報サイト「おっと!むろらん」には、「やきとり」専門店の一覧が掲載されているので、参考にしてみてください。

コメント

  1. 前からどうして豚肉なのにやきとりなんだろうと思っています。答えは?

    それより別の疑問が生まれてしまいました。室蘭では鶏のやきとりはなんて呼ばれているんだろうって。ご存知ですか?

    返信削除
    返信
    1. 今は、鶏の「やきとり」もあります。なので、かなり紛らわしくなってしまったので、「やきとり(豚精肉)」、「やきとり(鶏精肉)」などと、メニューに入れている店も多くなっているようです。

      そう言えば、N嶋さんが室蘭でしたね。

      削除

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