鉄板焼き鳥にセンザンキ、焼豚玉子飯 - 今治のソウルフードはすごいぞ
このところ、ご当地グルメとかソウルフード、B級グルメにまつわる話が続いています。そこで、今日もその流れのまま、鉄板焼き鳥、センザンキ、焼豚玉子飯など、独特の食文化がある愛媛県今治市を紹介します。
今治市を訪問したのは、山火事ではげ山となった笠松山で行われた大規模な植樹ボランティアの取材のためでした。笠松山は、今治市朝倉地区のシンボルとも言うべき山で、標高357mの山頂には観音堂もありました。また、瀬戸内海国立公園の一部として遊歩道が設けられ、山側も海側も眺望が開け、多くの人に人気のあるハイキングコースだったそうです。
しかし、2008年の夏、たばこの火が原因と見られる山林火災が発生。わずか48時間で、灰と炭だけの変わり果てた姿になってしまいました。私が取材させてもらった時は、一般ボランティアの他、児童養護施設の園生やボーイスカウト、プロ野球独立リーグ「愛媛マンダリンパイレーツ」の選手、主催の地元ライオンズクラブら総勢約150人が参加。みんなで1000本の苗木を植樹されました。
植樹は午前中に実施されるため、今治には前日に入りました。その夜、取材先の一員でもある友人のIYさんが、今治のソウルフード「鉄板焼き鳥」に案内してくれました。
焼き鳥と言うと、一般的には串に刺して炭火などで焼くものを想像します。しかし、今治では鉄板で焼きます。前のブログに登場した、高山の焼きそば(ちとせ)と鉄板焼きとうふ(国八食堂)、神戸のお好み焼きとそばめし(青森、ゆき)を含め、世の中には、鉄板を使って調理する料理はたくさんあります。そう考えれば、鳥を鉄板で焼いて何が悪いというわけです。
今治で、鉄板焼き鳥が始まったのは、昭和30年代半ばのことです。
今治は、瀬戸内海に面する古くからの港町で、漁師が多い土地でもあります。 朝の早い漁師たちは、早めに一杯やっておきたいと、まだ仕込み中の夕方から焼き鳥屋に行き、早く焼けと要求。
しかも、彼ら漁師に限らず、今治の人はかなりせっかちらしく、焼き鳥屋で注文をしても、もたもたしていたら、焼き上がるのを待たずに帰ってしまうんだとか。炭火でじっくり焼いていては、そんな今治人の求めに応じられない、と考えたある焼き鳥屋の主人、遂に鉄板焼きでイラチな今治人に対抗することにしたのです。鉄板焼き鳥では皮が最もポピュラーなのですが、串に刺した炭焼きの皮が柔らかい食感を楽しむのに対し、鉄板焼きでは表面はカリッ、中はジューシーという全く違うものになります。で、これが客に大受け。以来、今治では鉄板焼き鳥を出す店が増え、今では老若男女を問わず、完全に今治のソウルフードとなっています。
「飲み物はビールだろうが、焼酎だろうが、何でもいいんですけど、注文するのは、まず皮ですね。今治の焼き鳥は、皮ありきです」と地元の皆さん。「ただ鉄板の上で焼くんじゃなく、時々、重しで上から押さえるんです。そうすると、熱で蒸されて中まで火が通るし、鳥の脂が出て肉が揚げたようにカリッとなるんですわ」
このカリッにこだわって、肉の脂が切れやすいよう、わざわざ鉄板を斜めに作っている店もあるそうです。で、脂分を落としながら、鉄板でしっかり焼き上げた皮を、少し甘めのタレをつけて食べます。そして、焼き鳥と同時に出て来るのが、キャベツ。こちらはおかわり自由。皮を食べ終わった後には、タレを継ぎ足し、キャベツをタレにつけて食べたりします。
「皮の次は『せんざんき』ですね。鶏肉に下味をつけて唐揚げにしたもので、この辺り独特らしいんですが、これまた定番メニューです」と。
なんせ、今治に進出したケンタッキーフライドチキンが、たった1年で撤退したのは、せんざんきに慣れ親しんだ今治市民に受け入れられなかったからとも言われています。やはり、食は文化でなんですねえ。
ところで、下味を付けた鶏の唐揚げというと、北海道のザンギが有名です。名前も似てますが、愛媛と北海道が、どうつながってるんでしょう。
「せんざんき」の由来には、諸説あるそうですが、最も確実視されているのが、中華料理発祥説です。鶏肉を揚げる中華料理を「炸鶏(ザーチー、ザージー)」と言い、そのうち骨なし鶏の唐揚げを意味する「清炸鶏(チンザーチ)」が、いつしか「せんざんき」になったのでは、というのです。
ちなみに、北海道の「ザンギ」も、炸鶏からきているようです。一説によると、炸鶏に、幸運の運(ん)を入れ、「ザーンジー」と呼んだのが、「ザンギ」に転化したとも言われます。
どちらにも、発祥と言われる店があって、今治は「スター」、北海道は釧路の「鳥松」が、そう呼ばれています。
「スター」は今治港に近い米屋町にあり、もともとはカフェとしてオープンしたようですが、その後、普通の料理も出す店に衣替え。そして店主が、兵役に就いていた満州で覚えた「清炸鶏」を、引き揚げ後に「せんざんき」としてメニューに載せたのが始まりです。昭和30年頃には、スターの「せんざんき」は今治市だけではなく、広く知られるようになり、今で言う行列の出来る店になりました。店は1969年に閉業しましたが、2017年に創業者のお孫さんが「スターせんざんき」としてオリジナル「せんざんき」の販売を始めています。
一方の「鳥松」は、1960(昭和35)年の創業。こちらは、今も営業を続けており、開業当時の味を守り続けています。なお、「ザンギ」は、下味がつけられているので、そのままで十分おいしいのですが、タレをつけて食べるのが釧路流と言われ、「鳥松」では、「ザンギ」用に秘伝のタレが用意されているそうです。
ちょっと「せんざんき」で勝手に盛り上がってしまいましたが、実は、Iさんたちと「鉄板焼き鳥」を食べていた時のこと。一緒に、焼き鳥を食べていた地元の方たちの話から、聞き捨てならない言葉が耳に飛び込んできました。
「やきぶたたまごめし」・・・これは、どう考えても、「焼き豚」「玉子」「飯」でしょう。もう、その3語からして魅力的。 そこで、情報収集の上、植樹終了後、Iさんと「焼き豚」「玉子」「飯」を食べることになりました。
もともとは、「五番閣」という老舗中華料理店のまかない飯だったそうですが、それがいつしか今治の中華では一般的メニューに。で、今治では、日本人経営のほとんどの中華屋で食べられるとのことでしたが、おいしいのは「重松飯店」の玉子飯、と消息通。
そこで翌日、IYさんの案内で「重松飯店」を訪問しました。この店、IYさんのお宅から500mほどの場所にあったのですが、IYさんも初めてとのこと。まさに灯台下暗しです。
店構えは、まさしく町中華という感じで、メニューを見ると、ラーメン380円(当時)とか激安です。そんな中、真ん中ぐらいに普通に「焼豚玉子飯」650円也がありました。「カリー飯」とか、他にも気になるメニューはあったのですが、ここは迷わず「焼豚玉子飯」です。
で、出て来た「焼豚玉子飯」が、写真の品。半熟の目玉焼きが二つのっかっていて、それを、ちょいと持ち上げてみると、下に焼き豚が並んでいます。それにタレをかけたという非常にシンプルな一品なのですが、とても、うまい! 新たなB級グルメの登場。正直、そう思いました。
今でこそ、「焼豚玉子飯」の名は、かなり知られるようになってきましたが、当時はまだ、全国的に見ると無名に近い存在でした。第1回B-1グランプリが開催された2006年から3年、私が今治に行った頃は既に、B級グルメに注目が集まる時代になっていました。しかし、四国からB-1グランプリや、その参加団体により設立された「愛Bリーグ」に参加するグループはありませんでした。
潮目が変わったのは、2010年のこと。香川県多度津市の「鍋ホルうどん」を町おこしの柱に据えたグループが、どうせなら「四国全体を盛り上げよう!」と、四国のB級グルメ関係団体に「四国B級グルメ連携協議会」の発足を呼び掛けたのです。これに各地の団体が呼応。10年8月に愛媛県松山市で開いた発足会には、高知県須崎市の「鍋焼きラーメン」や愛媛県八幡浜市の「八幡浜ちゃんぽん」など10を超える団体が参加、その中には今治の「焼豚玉子飯」も入っていました。この動きをマスコミ各社も報道、愛Bリーグ加盟団体のない空白地帯だった四国でも、一気にB級熱が高まることとなりました(「丸亀・一鶴、多度津・いこい、琴平・紅鶴。香川県の骨付鶏3選」参照)。
その後、「焼豚玉子飯」(今治焼豚玉子飯世界普及委員会)は、2011年開催の第6回B-1グランプリから参戦。以来、毎回参加するようになり、第7回と第9回では3位、2017年の「西日本B-1グランプリin明石」ではグランプリを獲得し、「焼豚玉子飯」の名を全国に広めることになりました。
現在、今治では、「焼豚玉子飯」をメニューに載せている店が、60店舗ほどあるようです。更に、今治市以外にも広がっており、松山市でも「焼豚玉子飯」を出す店があるとのこと。実は私も、松山に行った際、駅で「やきぶたたまごカレー」と書かれたのぼり(カレーショップデリー)が目にとまり、思わず店に入って食べたことがあります。
また、東日本大震災の被災地・宮城県南三陸町へ行く度に寄っていた、道の駅「津山 もくもくランド」(登米市)の食事処「木里口」で、「焼き豚たまご飯」を発見。3月の震災後、毎月のように南三陸へ行っていましたが、年末までこの店には入ったことはなく、その存在に気付きませんでした。しかし、そうと分かれば、迷わず注文。遠く離れた宮城の地で、まさかの「焼豚玉子飯」でありました。
※当時、「重松飯店」のメニューをSNSにアップしたところ、今では私が居住する県の知事をされているOMさんが、「いもあめ」に反応。後日、IYさんが、わざわざ「重松飯店」の大将に確認してくださり、「いもあめは、抜絲地瓜(バースーティグワ)という中華料理で、基本的には大学芋に似ているが、大学芋よりも飴の糖度が高く、表面がカリカリとした食感になると共に、糸引きが生じるのが最大の特徴」とのことでした。
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