本州最南端・串本節の古里を歩く

 


JR串本駅から歩いて20分ほどの所に、海岸から紀伊大島へ向かって一直線に続いている大小40ほどの岩があります。長さは約850mにも及び、それらの岩が橋の杭を思わせるところから、橋杭岩(はしぐいいわ)と呼ばれています。

橋杭岩には、弘法大師と天邪鬼が一晩で橋を架ける賭けをして、一夜にして出来たという次のような伝説があります。

昔、弘法大師が天の邪鬼と、串本から大島まで橋を架けられるか賭けをしました。弘法大師は橋の杭をどんどん作っていき、天邪鬼はこのままでは負けてしまうと、とっさにニワトリの鳴きまねをして、弘法大師に朝が来たと思い込ませました。弘法大師は、それで諦め、その場を去ったため、橋の杭のみが残りました。

弘法大師伝説はともかく、まるで橋脚のように直線上に連なる岩を見ていると、対岸の大島へ行きつこうとして果たせない、未練の思いを形にしたようにも見えます。


串本は、紀伊山地を背に雄大な太平洋に突き出した本州最南端の町です。東西に長く延びた海岸線は、リアス式海岸になっており、橋杭岩だけではなく、多くの奇岩・怪石の雄大な自然美に恵まれ、吉野熊野国立公園の指定を受けています。

東京からは、羽田から1時間15分のフライトで、南紀白浜空港へ。空港から串本までは、車で約1時間半となります。ただ、便数は3往復なので、フライトの時間が旅程と合わない場合は、新大阪から特急くろしおに乗ることになります。

2年前の2018年9月に、カメラマンの田中さんと私が選んだのは、特急くろしおでの往復でした。取材は朝だったので、前日中に入ればよく、往路はどうとでもなりましたが、帰路は昼の飛行機には間に合わず、さりとて夜の便では時間を持て余してしまうための選択でした。

前日、東京駅からのぞみで新大阪まで行き、乗り換え時間10分少々で特急くろしおに乗車。串本着は18時34分の予定で、乗車時間は約3時間20分。夕食は着いてからでいいものの、時間がたっぷりあるので、くろしおではビールでも飲みながら移動しよう・・・。田中さんも私も、そう目論んでいたのですが、くろしおには、車内販売がありませんでした。

ゑちご亭の料理たち
列車での車内販売は、日本では1935年から行われていたそうですが、近年は駅のコンビニや駅ナカなどが充実したことより、車内販売の利用客が年々減少。更に離職者が増え、人員確保も難しくなったことから、次々と車内販売が廃止されています。そんな中、JR西日本では既に2015年から在来線特急での車内販売を全廃していたらしく、我々としては想定外の事態に陥りました。

と言っても、どうしようもないので、車内では串本の店を検索。すると、ホテルの真ん前に、私の好きな「大衆食堂」があることが分かりました。前のブログ(福山市民のソウルフード、大衆食堂「稲田屋」さんが閉店)でも書きましたが、私、インスタグラムで「#大衆食堂」のハッシュタグをフォローするほど、大衆食堂が好きなのです。

というわけで、まずは串本駅前の大衆食堂「ゑちご亭」を目指すことに。当日朝の取材は駅から300mほどの場所だったので、ホテルは駅前に取り、串本到着後、5分ほどでチェックイン。荷物を部屋に置いて、早速、ホテル向かいのゑちご亭へ。

この店は、基本、保温ケース内のつくりおき料理を選んで食べるシステムのようです。もう少し前のブログ(おいしい食べ物が多かった観光地ナンバー1 - 高知)で紹介した「くろちゃん食堂」も同じシステムでしたが、私、こういうの、嫌いじゃありません。

メイチダイのお造り
で、揚げもの盛り合わせ(@300)、刺身盛り合わせ(@300)、マグロの刺身(@500)、ポテトサラダ(@100)、シラスおろし(@100)などをセレクト。料理メチャ安です。ビールも、自分で冷えているのを取り出せばいいようになっていて、我々は瓶ビールにしました。

ここで人心地ついたところで、少し串本の町を歩いてみることに。どうせなら、明日の取材場所である旧フェリー乗り場の近くがいいかな、と探索を始めました。すると、200mほど歩いた辺りに、何軒かの店がありました。外観からは、どこがいいか全く見当がつきませんでしたが、その中の一つ「居酒屋がんちゃん」に入ってみました。

カウンターに座って、2軒目だと言ったところ、大将からメイチダイを勧められ、お任せすると、お造りとあら煮を出してくれました。後から、常連客が入ってきましたが、大将との話をそれと聞いていると、その常連客は漁師さんらしく、地元の漁師さんも来店するならと、少し安心して腰を落ち着けることにしました。

メイチダイのあら煮
その後は、漁師さん以外の客が入って来なかったため、我々の料理を出してしまうと、大将は手が空いたらしく、漁師さんと話をしながら、何かの液体を瓶に詰め始めました。どうやら、店で使っているだし醤油を、常連さんに配るため、瓶に移していたようです。

いつも、そんなサービスをしているんですか? と聞くと、漁師さんが代わりに答え、時々もらうけど、これが旨いんだよ、と。その褒め言葉が効いたのか、帰り際、会計を済ませた我々に、大将がだし醤油をプレゼントしてくれました。一見の客なのに、ラッキーな夜でした。

翌朝、私はホテルで自転車を借り、橋杭岩へ。実はこの時、田中さんにはスチール写真を依頼していましたが、私は簡単な動画を撮って、ウェブマガジンにアップすることになっていました。その動画に、場所の説明が必要で、串本駅と共に橋杭岩を押さえておくことにしたのです。

ホテルはしつこいようですが、駅前だったので、橋杭岩まで自転車なら10分もかかりません。三脚を据えて、ささっとカットを撮り、更に帰りに駅にも立ち寄り、「本州最南端」のキャッチ入りモニュメントを押さえて、ホテルへ戻りました。


取材は、串本港での海中清掃ボランティア。和歌山市内のダイビング愛好家たちが、地元串本の奉仕団体とタイアップして実施したもので、潜水班は13人で編成され、地元のダイビングショップ・串本マリンセンターと赤松ダイバーズが加わり、4班に分かれて海中からごみを回収。陸上班は水中からごみを引き揚げたり、それを分別したりして、約1時間半にわたって活動しました。

水の中には、船を保護するためのフェンダー代わりに使われていた古タイヤがたくさん沈んでおり、それらが見つかった時はトラロープを結びつけ、陸上班が水中から引き揚げます。これがまた重労働。古タイヤには大量の泥が詰まっており、かなりの重さがあります。この日はユニッククレーンも待機していましたが、場所によっては人力で引き揚げるしかなく、トラック用の大型タイヤの場合は2人掛かり、3人掛かりで引っ張り揚げるなど、陸上班の作業もきつそうでした。

ラーメンとミニ丼(焼豚たまご入丼)セット
ちなみに、本州最南端の串本町は海岸部が吉野熊野国立公園に指定され、国の天然記念物である橋杭岩や、潮岬など有名スポットの他、世界最北域のテーブルサンゴ群生地などがあり、日本初の海中公園になったエリアはラムサール条約にも登録されています。串本では漁業に観光にと、こうした海の恵みを活用した町づくりがなされ、またウミガメが産卵のために上陸する上浦海岸の清掃など、豊かな自然を守り受け継ぐための市民活動が各方面で行われています。

ところで、仕事を終えた我々は、串本発13時37分発のくろしおまで、串本駅まで昼食を取りながら待つことにしました。で、機材もあるので、串本最後の食事は、駅前の中華「ロンパ」に。ランチメニュー に「ラーメンとミニ丼セット」とあったので、その中から、B級グルメ好きの心をくすぐる「焼豚たまご入丼」を注文。これは、見た目も味もとっても良かったんですが、どう見てもミニ丼じゃありませんでした。


コメント

  1. バブルが弾けそうな頃(たぶん弾けていた)、まだ30代だった私はダイビングにはまってしまい国内は沖縄から串本、若狭湾、海外はサンティエゴからケイマン諸島の海で潜っていました。

    ある日、仕事が終わってから車で串本まで走りました。国道42号線は和歌山から紀伊半島の半分くらいを回り、途中は海上を通り浜松市まで伸びる道路です。

    今でも夜中になると街灯がなく、真っ黒でクネクネと海岸線を走る道だと思います。一人で串本に走る途中、気味の悪いトンネルを越えたり峠を越える恐怖は忘れられません。

    夜中前に串本の民宿に着き、明日のダイビングのために寝ようと思っていたところに、奥尻で発生した地震の津波警報が出て串本にも津波が押し寄せるかもしれないというニュースを知りました。結局、午前中に津波警報は解除になって、潜れましたけどなんか前日の夜の恐怖と津波の恐怖のダブルで楽しめなかったです。

    その後一年半で神戸でも大地震が起こるなんて考えもしませんでした。

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    1. これで一本、ブログが書けますね。

      関西の方にとっての紀伊半島は、関東の人間にとっての房総みたいなもんですかね。学生の頃、大学に集合して車で外房を目指しましたが、千葉に入ってから、ペーパードライバーの友人に運転を任せたところ、海に行くはずなのに、対向車とすれ違えないような細い山道が続き、かなり怖い思いをしました。

      今はナビがありますが、距離優先を選択すると、時々、めちゃくちゃマニアックな道に案内され、戸惑うことがあり、その時のことを思い出します。

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