忍岡と呼ばれた上野公園と不忍池は台地と低地の境目

不忍池

昨日の記事(千駄木・根津・湯島、日本武尊伝説ゆかりの地を巡る)の根津神社から湯島方面へ向かう不忍通りは、湯島の手前で不忍池に沿って曲がり、上野駅へと至ります。不忍通りの名前の由来は、不忍池から続く通りだからですが、じゃあ、不忍池の由来は?って思いますよね。

これには諸説あって、上野の山の古称「忍岡(しのぶのおか)」からという説や、笹が生い茂って輪のような水辺だったから(篠輪津)という説、更には結ばれなかった男女が池に身を投じた悲話からついたという説もあります。

不忍池

ちょっと地形の話になりますが、東京は、いわゆる山の手と呼ばれる標高20mぐらいの台地と、ゼロメートル地帯と呼ばれる下町エリアの低地から成ります。また、昨日の記事で、「文京区は、もともと五つの台地といくつもの谷で出来ており、坂が多い」と紹介しましたが、山の手には、それと同じように、台地が浸食されて出来た谷が、あちこちにあります。

不忍池

上野の場合、山の手の台地と下町の低地の境になっています。分かりやすいのが上野駅で、中央改札口と不忍口は1階にありますが、公園口は3階にあり、駅を境にして台地と低地が分かれているのです。(※入谷口はちょっとややこしくて、駅の外に出る入谷口は1階ですが、ホームに入る入谷改札は3階にあります)

不忍池
で、上野公園も、公園口から入った国立西洋美術館や国立科学博物館、東京国立博物館などは台地、そして不忍池は低地となります。上野は、「上野のお山」などと呼ばれるように、まさに台地の上にあり、忍岡の古称もそこから付けられたのでしょうし、不忍池は、忍岡ではないということで、不忍となったのかもしれません。この説、確かに一理あります。

でもまだ、「忍」って?となりますよね。そこで出てくるのが、篠輪津説ですが、これを逆にたどると、忍岡は篠輪岡ってことになって、台地も笹が輪になっていたことになり、ちょっと無理がありそうです。そう考えると、しのび逢いの男女説も、こじつけな感じがします。

そこで、もう一度「忍」に戻りますが、この字を見ると、どうしても忍者や忍術、いわゆる「忍び」を思い浮かべてしまいます。が、実は「シノブ(忍)」というシダがあって、これ、山地の岩の上や木の幹などに付くんだそうです。シノブは、日本全国に分布しており、当然、上野の台地にも繁茂していたでしょう。

なので、シノブが生えている岡=忍岡、シノブのない池=不忍池ってことになったのでは、と思うのですが・・・。

ところで、山の手台地と下町低地の境になっているのは、上野駅だけではなく、その名も山手線の上野から田端にかけては、ちょうどその境を電車が走っていることになります。なので、上野駅の隣にある鶯谷駅も、上野と同じように、南口は台地ですが、北口は低地になります。南口は、徳川将軍家の菩提寺・寛永寺の寺域で、崖下となる北口は、ラブホテル街となっていて、かなり対照的な印象を与えます。

上野公園の桜

現在の上野公園は、もともと寛永寺の境内だった所で、将軍家の菩提寺だけあって、広大な寺領を有していたことが分かります。寛永寺やその墓地がある鶯谷駅南口から、上野公園を目指すと、まず寛永寺36坊と呼ばれた子院の集まるエリアにぶつかります。36坊のうち現存するのは19坊で、このエリアに15坊が集中しています。

上野公園の桜

通りを隔てた向かいは、東京国立博物館で、その間の道を進むと、前方に巨大なシロナガスクジラのオブジェが見えてきます。国立科学博物館のシンボルです。科学博物館の脇からも公園に入れますが、東博前の入口から入ると、竹の台広場という広々としたスペースが広がり、正面には大きな噴水があります。

ちなみに、東博には、資料館(https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=138)もあり、何度か利用させてもらいました。ちょうど30年前、「日本の意匠」をテーマに表紙を組んだ時は、まだデジタル化されていなかったため、ポジフィルムを1枚1枚チェックして、セレクトしたので、とても時間がかかった記憶があります。


この東博の入口から200mほど進むと、京成電鉄の旧博物館動物園駅があります。京成電鉄は、日暮里駅を出た後、JRをまたいで山手線の内側に入った所で地下に潜り、上野公園の下を通って、不忍池近くの京成上野駅まで通じています。博物館動物園駅は、その途中にありましたが、利用者の減少などから1997年4月に営業を休止し、2004年4月に廃止となりました。しかし、駅構内や駅舎などは、取り壊されることなく、そのまま残っていました。

そして2017年、駅に近い東京藝術大学と協力して、旧博物館動物園駅駅舎をリニューアル。18年からは、イベントなどで限定公開しています。京成電鉄が、専用サイト(https://www.keisei.co.jp/keisei/hakudou/index.php)を作っているので、興味のある方はご覧ください。


それとたぶん、言わずもがなだと思いますが、上野公園は桜の名所として知られる他、上野動物園や国立西洋美術館、東京都美術館、上野の森美術館、上野東照宮、旧寛永寺五重塔などもあります。また、西郷隆盛像があるのもここです。作者は高村光雲で、身長は約3m70cm、愛犬の名は「ツン」というそうです。像の除幕式で、いと夫人がつぶやいた一言「宿んしはこげんなお人じゃなかったこてえ!」は有名ですが、これは、似てないという意味ではなく、例え散歩であっても、服装を整えて外出する人だったので、こんな格好で出歩く人ではない、と言いたかったのでは、と推測されています。


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