宝登山を甘い芳香で包む黄金色の花「ロウバイ」
関東平野は、日本の平野の18%を占める、とにかくだだっ広い平野です。その中でも埼玉県は、西部に秩父山塊を抱えてはいるものの、ほとんどが平地で、私が住んでいる越谷市に至っては、ほとんどの場所が海抜5m未満、最も高い所でも8mないという、思い切り平べったい土地です。そのため、高架線を走る電車やホーム、大きめの河川橋の上などからは、東に筑波山、北に日光連山、西に富士山や南アルプス、南に東京スカイツリーが望めます。
東京も似たようなもので、奥多摩以外に高い山はなく、東京23区の最高峰は標高25.7mの愛宕山(港区の愛宕神社)という惨状です。いかに、関東平野がのっぺりしているかという証にはなりますね。
それでも埼玉には、秩父山塊があり、最高峰は秩父市と長野県川上村の境にある標高2483mの三宝山になります。ただ、山頂からの眺望は全くと言っていいぐらいないらしく、登山をする人は、近くの甲武信ケ岳のついで、あるいはアズマシャクナゲがきれいな十文字峠などとセットで登るようです。ちなみに、埼玉、山梨、長野3県にまたがる甲武信ケ岳は標高2475m、三宝山と同じく秩父市と川上村の境にある十文字峠は標高1962mになります。十文字峠には、私も登ったことがあります(最も奥秩父らしい森林美を持つ十文字峠)。その時に泊まった十文字小屋は、埼玉県側にあり、標高は2035m地点と、私のしがない登山歴の中では富士山に次ぐ高い山です。
これら2000m級の山々が連なる秩父には、「地球の窓」とも呼ばれる長瀞があります。長瀞の岩畳は、幅約80m、長さ約500mに及ぶ広大な自然岩石で、国の特別天然記念物に指定されています。また、長瀞と言えば、急流を船で下るスリリングな川下りが人気です。
そんな長瀞に、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で、一つ星を獲得した寶登山(ほどさん)神社があります。今から1900年以上前の西暦111年、父・景行天皇の勅命により日本武尊は東国を平定。そして『日本書紀』によると、その帰途に武蔵国へ入ったとされます。そのため、武蔵国には、あちこちに日本武尊の東征にまつわる伝説が残っています。
寶登山神社もそうですが、秩父の三峯神社や、埼玉と共に武蔵国を形成していた東京の鷲神社(台東区)、根津神社(文京区)などにも、日本武尊伝説が伝えられています。寶登山神社については、尊が宝登山へ向かう途中、山火事に遭遇し進退窮まったところを、神犬が火中に飛び込み火を消し止め、無事に頂上へ登って神霊を祭ったことが、寶登山神社の起源と伝えられています。
その宝登山は、標高497mの低山ですが、秩父山塊には珍しい独立峰で、美しい山容を見せています。今は寶登山神社奥宮までロープウェイで上がれ、冬はロウバイ、初夏にはツツジ、秋の紅葉と、四季を通じて美しい自然を堪能することが出来ます。
ロウバイは、宝登山山頂一体に約800株(3000本)の花が咲き誇り、「Winter Sweet(ウィンタースウィート)」という英名通りの甘い香りが漂います。漢字では、「臘梅」と書きますが、黄色い花が蜜蝋のような質感を持っているためとも、梅のような花が、臘月(ろうげつ=陰暦12月)に咲くからとも言われています。花期は、12月中旬から3月上旬で、秩父の山々を背景に、甘い芳香を放つ黄金色の花が咲き競う様は見事です。
蠟梅や雪うち透かす枝の丈(芥川龍之介)
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