歴史ドラマの舞台となった会津若松の旅
飯盛山の土産物屋から聞こえてきた「寄っでがんしょ。お茶飲んで休まっせ」の声に誘われ、店に入りました。お茶を入れてくれたおばさんに、東日本大震災の影響を聞くと、「観光客は激減。いつもは宮城からの修学旅行が多いんだけど、今はゼロ。福島や郡山の子どもたちが遠足で来るぐらい」とあきらめ顔でした。
東日本大震災から半年の2011年9月に、会津若松を訪れた時のことです。
飯盛山は、会津若松駅のほぼ真東にある標高300mほどの山で、白虎隊自刃の地として知られます。会津と言えば、白虎隊の悲劇を思い浮かべる人も多く、会津を旅した人は必ずと言っていいぐらい飯盛山に登ります。震災前には、年間約200万人の観光客が訪れ、白虎隊十九士の墓前には香煙が絶えませんでした。
頂上からは、市内が一望出来ます。かつて、飯盛山にたどり着いた白虎隊の隊士たちは、砲煙に包まれた城下を目にし、城が陥落したと思い自刃しました。山頂では、そんな少年たちに思いをはせ、手を合わせる人たちの姿が見られます。
その飯盛山の中腹には、会津さざえ堂というお堂があります。正式名称は円通三匝堂(えんつうさんそうどう)。上りと下りが別の通路になっており、入口から斜路を最上階まで上り、他者とすれ違うことなく、別の斜路を下って外に出ることが出来ます。世界的にも珍しい、二重らせん構造の建築物として、国の重要文化財に指定されています。
さざえ堂は、江戸後期に東北から関東各地の寺院に建てられた仏堂で、順路に沿って三十三観音や百観音などが安置され、堂内を回るだけで巡礼がかなう構造となっています。会津さざえ堂も同じで、明治初期の廃仏毀釈で廃寺となるまでは、斜路に沿って西国三十三観音像が安置されていました。
この飯盛山と並んで会津若松のシンボルとなっているのが、鶴ケ城です。会津の旅で、ここを外すわけにはいきません。
蒲生氏郷が築いた城は、黒壁で7層の天守閣を持ち、織田信長の安土城を思わせる偉容だったとも言われています。江戸時代に地震の被害を受け、再建された天守閣は、現在と同じ5層でした。戊辰戦争後は、明治政府の命令で取り壊され、現在の天守閣は1965年に再建されました。内部は郷土博物館になっていて、5層からは会津若松市街地や会津盆地、奥には磐梯山まで望めます。
震災があった2011年3月に、天守閣の屋根の葺き替えが終わり、それまでの黒瓦を明治以前の赤瓦に戻しました。そして3月27日からリニューアルオープンし、それを記念して、さまざまな特別企画が用意されました。しかし、会津地方は、原発事故の影響がなかったのに、同じ福島県ということで、風評被害により、思うようには客足が伸びなかったようです。
鶴ケ城を下りたら、藩政時代には会津五街道のうちの日光、越後、米沢街道が通っていた七日町通りに行ってみるといいと思います。ここは一時、7割が空き店舗で、あってもなくてもいい「盲腸通り」と言われていました。しかし、景観を生かした町作りにより、大正浪漫を感じられる通りとして甦り、今や観光客はもちろん、全国の商店街からも注目を集めています。
ここで、最初に戻りますが、飯盛山の土産物屋のおばさん一推しの土産が、会津でしか売っていないという「会津名物ソース」でした。伝統会津ソースカツ丼のために開発されたソースです。「めでたいや」という名前の会社が作っているもので、りんごベースのとても甘いソースだそうです。
ソースカツ丼というと、これはもう、福井にあるヨーロッパ軒(ソースカツ丼発祥の店ヨーロッパ軒総本店を訪問)が発祥というのが定説になっています。一方の伝統会津ソースカツ丼ですが、これは1)大正起源説、2)昭和(戦前)起源説、3)昭和(戦後)起源説と三つの説があるそうです。簡単に言うと、1)は鰻の蒲焼きをヒントに作ったまかない説、2)は東京から洋食のコックを招き生み出した説、3)は東京で食べたソースカツ丼のアレンジ説です。
ちなみに、ヨーロッパ軒のソースカツ丼はご飯の上に直接ソースカツが載っていますが、伝統会津ソースカツ丼はご飯とソースカツの間に千切りキャベツが敷いてあります。他に、茨城県・常陸太田と群馬県・桐生のソースカツ丼も直置きタイプ、長野県・駒ケ根の駒ケ根ソースかつ丼は千切りキャベツ入りタイプになります。
食べ物ネタついでに、会津を代表する郷土料理「こづゆ」を紹介しておきます。こづゆの具材は、里芋、椎茸、豆ぶ、きくらげ、こんにゃく、にんじんが基本で、これに旬の物や青味などを入れます。そして、干し貝柱でダシを取り、塩や醤油で味付けをして、手塩皿と言われる浅めに作られた小さい朱塗りの椀に盛りつけます。元は武家料理であったと言われていますが、それがいつしか庶民の料理となり、祭りや祝い事の晴れ食として、また冠婚葬祭の膳に必ず付く伝統食となりました。鶴ケ城の近くにある鶴ケ城会館(ツルカン)には、こづゆもソースカツ丼もあるので、鶴ケ城訪問を昼前後にすれば、一石三鳥となります。
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