初対面の方のお宅で家飲み、朝帰りをした石垣島の一日

初めて石垣島へ行ったのは、今から35年前の1986年でした。与那国島に住む方の取材でしたが、与那国へは石垣から飛行機で渡るのが最適なので、当然のことながら石垣島経由となりました(日本最東端と最西端 - 納沙布岬と与那国島)。

一連の取材が無事終わった後、取材対象の方の知人であるOYさんが、石垣島を案内してくださることになりました。車で一周しても大したことはないからと言われましたが、正直、観光のことは考えていなかったので、完全お任せ状態でした。最初に行った白保では、OYさんの知人のお宅にお邪魔しました。白保は、サンゴの石垣が続く、とても美しい町並みで、訪問させて頂いたのは、赤瓦の屋根を持った伝統的な平屋建てのお宅でした。

その際、この近くで新空港を建設する計画があり、それが白保沖合いのサンゴ礁を埋め立てる案となっているため、地元で反対運動が起きているとのことでした。結局、白保埋立案は1989年に撤回されましたが、当時の石垣空港は滑走路が短く、小型ジェットが暫定的に運航している状態で、新空港建設自体は、賛成の島民が多かったようです。そのため、最終的には2000年になって現在地での建設計画が決まり、2013年から新石垣空港(南ぬ島 石垣空港)が供用を開始しました。


白保の後も、いろいろ行ったと思うんですが、覚えているのは、米原ヤエヤマヤシ群落と川平湾、それにどこかプライベートビーチ的な砂浜です。

米原ヤエヤマヤシ群落
ヤエヤマヤシは、石垣島と西表島だけに自生するヤシで、国の天然記念物に指定されています。幹が真っ直ぐ伸び、20m以上もの高さになるヤエヤマヤシは、「世界で最も美しいヤシ」とも言われます。米原には、そんなヤエヤマヤシが150本ほど群生しており、かなりのジャングル感があります。

そのジャングルを歩いている時、OYさんから「上からヒルが降ってくるからね」と、注意がありました。げっ! マジか・・・。それを聞いた私、上が気になって仕方がありません。ヒルって、下から登ってくるだけじゃないのか・・・。

本州のヤマビルとは違うのかもしれませんが、雨の後など、本当に樹上から落ちてくることがあるらしいです。そんなわけで、世界で最も美しいヤシの中で、最も印象に残ったのが、樹上のヒルという顛末でした。

米原のヤエヤマヤシ群落から川平湾までは距離にして10km弱、車で15分ほどでした。日本百景の一つに数えられる川平湾は、エメラルドグリーンの海に点在する緑の小島と白く輝く砂浜が美しい入江です。サンゴ礁が透けて見えるその海の色は、潮の干満と太陽の光によってさまざまに変化します。

そんなきれいな風景と共に、OYさんイチオシだったのが、黒真珠です。川平湾は、世界で初めて、黒真珠の養殖に成功した場所でもあります。


天然の黒真珠は、クロチョウガイの40万個に1個の割合でしか発見出来ません。養殖は非常に困難で、ここ川平湾でも製品となる真珠がとれるまでには、18年の歳月が費やされたそうです。

「黒真珠」というと、単に黒い真珠と思われがちですが、実際はクロチョウガイを母貝とする真珠のことです。ただ、クロチョウガイなら必ず黒い真珠になるわけではありません。白やピンクなど、貝の染色体によってとれる真珠の色はさまざま。1年に核入れする2万個のうち製品化出来るのは40%ほどだといいます。

熱帯性のクロチョウガイは、海水20度以下では棲息出来ません。石垣島は、最も低い1月の平均水温が20.5度と、その北限に当たります。また本来、外湾に棲む貝なので、潮の流れるきれいな海でなくては生きられません。一見、穏やかに見える川平湾は、意外なことに潮の流れが速く、棲息に適しているのです。


そんなミニ観光の後、OYさんは私を自宅に招待してくれました。まだ夕方でしたが、当たり前のように泡盛が登場。自宅一角にある会社の事務所で飲み始めたのですが、しばらくすると、なぜか三線を抱えた近所の若いおにいちゃんがふらふらっと入ってきて、私が東京から来たことを知ると、そのまま飲み会に参戦。で、彼の三線を聞きながら飲んでいると、今度は風呂帰りの年配の方が登場。近くに住む消防署の署長だそうで、彼も、私が東京の人間だと聞くと、珍しいものを食べさせてあげる、といったん外へ出て行きました。

沖縄では、湯船に浸かる習慣がないから銭湯もない、と言う人がいます。しかし、そんなことはなく、「ユーフルヤー(湯風呂屋)」と呼ばれる銭湯が、沖縄にもあちこちにありました。ただ、日本ではどこでもそうですが、70年代に入ると家庭風呂が普及し銭湯は衰退。私が石垣島に行った80年代後半には、ユーフルヤーは沖縄全体で50軒を割っていたようです。


ちなみに、2000年代には石垣市の銭湯は2軒のみになり、最後に残った石垣市新川の「濱の湯」が数年前に廃業したことで、石垣市の銭湯は姿を消してしまいました。なお、沖縄本島でも銭湯離れは顕著で、現在、残っているのは沖縄市にある「中の湯」1軒のみだそうです。

さて、そんなユーフルヤー帰りの署長さん、しばらくして何やら瓶に入ったものを持って戻ってきました。が、フタを開けてニオイを嗅ぎ、「あっ、だめだ。腐ってる」と。自家製のタコの漬け物だったそうですが、残念な結果に終わりました。ただ、それでは面子に関わると思ったのか、再度席を外し、戻ってきた時には、イノシシの刺身を手にしていました。


知人にもらった野生のイノシシだとのこと。後になって冷静に振り返ると、何かよからぬ虫がいたのではとも思いますが、既にだいぶ飲んでいたので、そんな考えは微塵も浮かびませんでした。実は、最初は観光客用の泡盛だったそうですが、やがて地元の方たちがふだん飲んでいる泡盛に切り替わり、日付が変わった頃には、全員が結構酔っていたようです。飲み始めの頃は名字で呼ばれていた私も、やがてファーストネームで呼び捨てにされ、トイレも自宅に上がるのは面倒だからと、そこの窓を開けてやっといて、と・・・。

最終的に、タクシーを呼んでくれたのは、朝の4時になっていましたが、タクシーが来たら来たで、「オイ、もう帰るのか!」と怒られる始末。やっとのことで帰り着いたホテルでは、フロントの方が笑顔で「家の方から何度も電話がありました」と、メッセージをくれました。部屋で仮眠をとり、タクシーで空港へ向かう途中、「朝まで飲むのはやめましょう!」と書かれたキャンペーン・ポスターが目に入りました。

石垣島ジンジャーエール

※石垣島土産:「日本最南端で誕生した、本格オリジナル・ジンジャーエール」。それが、石垣島ジンジャーエールです。国産ショウガを絞り、それにピパーツ(島胡椒)、秋ウコン、ローゼル、島唐辛子、月桃、黒糖と、地元八重山の素材を取り入れ、ピリッと香りの良いジンジャーエールに仕上がっています。

コメント

このブログの人気の投稿

悲しい歴史を秘めた南の島の麻織物 - 宮古上布

愛媛県南部の初盆行事 - 卯之町で出会った盆提灯

銘菓郷愁 - 米どころ偲ばせて「養生糖」 新潟県新発田

『旅先案内』都道府県別記事一覧

岩手の辺地校を舞台にした「すずらん給食」物語

上州名物空っ風と冬の風物詩・干し大根 - 笠懸町

越後に伝わるだるまの原型「三角だるま」

地域の復興に尽くすボランティアの母 - 八幡幸子さんの話

飛騨高山で味わう絶品B級グルメとスーパージビエ

日本最北端・風の街 - 稚内