糸魚川駅北大火からの復興

糸魚川 雁木の町並み
糸魚川市は、日本列島を東西に分けるフォッサマグナの西側断層「糸魚川‐静岡構造線(糸静線)」が通り、日本列島の形成を示す貴重な地質や特徴的な地形を見ることが出来ます。そんな糸魚川はまた、幾度となく大火に見舞われてきた歴史を持ちます。昭和以降に限っても、昭和3(1928)年、7(1932)年、29(1954)年、そして記憶に新しい2016(平成28)年と、糸魚川の人々は、度重なる大規模火災を経験してきました。

2016年12月22日に発生した火災は、147棟の建物を焼失し、糸魚川市駅北大火と呼ばれました。火は、地元で「じもん風」とか「蓮華おろし」と呼ばれる強い南風にあおられて飛び火を繰り返し、鎮火まで30時間を要しました。その間、雁木造(がんぎづくり)の商店街や、360年以上の歴史を持つ酒蔵「加賀の井酒造」、多くの著名人が宿泊した「平安堂」、江戸時代から続く料亭「鶴来家」なども焼けてしまい、町並みは一変。焼失面積は約4万平方m、火元から海側へ約300mも燃え広がり、鎮火された現場には、信じられないような光景が広がっていました。

この火災から1年ほど経った頃、糸魚川市を訪問する機会がありました。糸魚川駅北大火を紙芝居で語り継ごうと活動していた女性、中村栄美子さんにお会いするためでした。


中村さんは、電電公社(NTTの前身)に勤務時代、テレホンサービスを担当しており、その中で地元の民話をテレホンサービスで紹介する企画を始めたそうです。それが、1日に全国で700人以上の人が聞いてくれる大ヒットになり、以来、山間のお年寄りを訪ねて昔の伝承や民話を採話するようになりました。こうして取り上げた民話は500話近くになり、そのうち6話は「まんが日本昔ばなし」にも採用され、全国放映もされたとのことです。

糸魚川大火

その後、地域の歴史を紙芝居などで伝える紙芝居グループ「昔かたり春よこい」を結成。その代表を務め、制作したオリジナル紙芝居は80作以上に上ります。そして、全国規模の紙芝居大会で優秀賞6回、第7回日本語大賞優秀賞などの受賞歴があります。

そうした経験から、中村さんは、火事の記憶を風化させず次の世代に伝えていく手段として、「糸魚川駅北大火」の紙芝居を制作することにしました。制作費は、糸魚川ライオンズクラブが支援してくれ、2017年11月に完成しました。


通常、紙芝居は大体15〜16枚で作るそうですが、「糸魚川駅北大火」の紙芝居では、思わず力が入り、25枚になっったといいます。火事で焼失してしまったものも含め、糸魚川の歴史を語り継いでいきたいという思いが強かったようです。

更に、糸魚川の経験を、出来るだけ多くの人に知ってほしい、と紙芝居を基に「糸魚川駅北大火」の絵本化を計画。2018年3月10日から、クラウドファンディングで資金調達をし、目標額50万円のところ58万2000円が集まり、目標を達成。市の補助も得て1000冊を自主製作、その年の全国自作視聴覚教材コンクールの社会教育部門で入選作に輝きました。

雁木の町並み

ちなみに、私の母校・早稲田大学の校歌「都の西北」や日本初の流行歌「カチューシャの唄」、童謡「春よこい」などの作詞者として知られる相馬御風は、この糸魚川の出身です。早稲田大学卒業後、島村抱月の下で『早稲田文学』の編集に参加するなどしていましたが、33歳の若さで文壇と決別し、郷里へ戻ります。そして、67歳で永眠するまで、現在、県の史跡に指定されている「御風宅」で暮らしました。

雁木の町並み
御風は、1883(明治16)年、代々宮大工の棟梁を務めていた糸魚川屈指の旧家の一人息子として生まれました。父徳治郎は、第4代糸魚川町長も務めた人でした。ただ、御風の生家は、過去の大火で燃えてしまいました。御風の随筆の中にも、そのことに触れた記述があるらしく、土蔵1棟を残し焼失してしまったことが分かるようです。

さて現在、糸魚川では、大火からの復興に当たって、昔ながらの町並みを再生しようとしています。最大の眼目は、雁木のようです。雁木は、雪の多い冬でも通行に支障がないよう、建物の庇を道路側に長く出したもので、新潟や青森など、雪国特有の建築物です。

火事に遭わなかったエリアでは、今も雁木が残っていますが、焼失したエリアのメインストリート(本町通り)は、昔の加賀街道になり、宿場町として栄えた道筋でもあります。その本町通りを始め、焼失エリアを難燃材や不燃材を使用した雁木で再生し、糸魚川らしい町並みにするのが目標となっています。

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