富士山麓、素朴な山里の雰囲気を残す手織り紬の里 山梨県富士河口湖町
山梨県南部、富士山の北麓に半円を描くような形で、山中、河口、西、精進、本栖のいわゆる富士五湖が連なります。富士山を望む湖として、日本で最も有名な湖沼群です。河口湖はその中心で、県内観光のメッカとなっています。
その河口湖北岸に大石という集落があります。湖畔の大石公園からは、湖越しに雄大な富士山が望め、ゆったりとした気分にひたれます。夏には公園にラベンダーが咲き誇り、富士と湖、花の取り合わせがとても美しい場所です。
その大石公園から、山側に向かって少し入った辺りに、大石紬伝統工芸館があります。私が取材した頃は、周辺にまだ茅葺きの家が残り、素朴な山里の雰囲気を残していました。今はさすがに、ほとんどの家が、トタンなどで屋根を覆わってしまったようですが、古くからの手織り紬の里にふさわしいたたずまいが感じられました。
そして、そんなたたずまい通り、大石では今も、蚕を育て、繭を採り、糸を紡いで染めています。昔ながらの農家の機織りの姿を、最もよく伝えているのが、この大石紬だと言われます。
大石紬には玉繭が使われます。玉繭というのは、一つの繭に二つのさなぎが入っているもので、昔は屑繭と呼ばれました。太く、節の多い糸が出来ます。節があるからねばって切れやすく、手間がかかって織るのに苦労するのだといいます。大石の人々は、そんな糸を使い、根気よく丁寧に紬を織ってきました。大石紬が持つ温もりのある風合いは、こうして生まれるのです。大石紬のもう一つの特徴として、独特な光沢があげられます。糸は富士山麓に自生する草木で染められます。染めは水に大きく左右されます。大石の水は、富士山の雪解け水です。その水が、美しい色と艶を生みます。大石紬にとって、まさに恵みの水です。
取材した時は、12人の織り手がいました。伝統工芸館が出来てからは、自宅にあった機をここに集め、家事や農作業の合間にやって来ては、ここで機織りをしていました。伝統工芸館は、大石紬を織って50年、60年という織り手の手仕事に、直にふれることが出来る貴重な場でもあります。※現在、残っている織り手の平均年齢は80代後半で、大石紬は廃絶の危機にあるようです。
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