日本の門前町から世界の門前町へ 千葉県成田市

成田山新勝寺では10年に一度、ご開帳が行われます。最近では2018(平成30)年4月28日から5月28日まで、開基1080年を迎えて記念開帳が行われました。

私はその30年前、開基1050年に当たる1988(昭和63)年に、成田山新勝寺を取材させてもらったことがあります。その年はちょうど、成田空港も開港10周年という記念すべき年になっていました。

成田山は940(天慶3)年、寛朝大僧正の開基と伝えられます。あれ? 計算が合いませんね。

そうなんです。実は、開基1000年に当たる1940年は、『日本書紀』に記されている神武天皇即位から2600年に当たり、国を挙げて紀元2600年祝賀行事が行われることになっていたため、自主的に2年前倒しをして、1938年に開基1000年記念大開帳を実施したのです。

それはともかく、成田山開山当時の関東では、平将門の乱が起こリ、朱雀天皇の勅命を受けた寛朝が、京から弘法大師の手になる不動明王像を携えて下総に渡リ、公津が原(現・成田市不動ケ岡付近)で、将門降伏の祈願を行いました。そして乱の平定後、堂を建ててこの尊像を安置、新たに敵に勝ったというので、新勝寺と名付けたといいます。

もっとも、成田山が今日のような隆盛をみるのは、後の世、江戸中期のことです。深川弥勒寺の一末寺から、京都・大覚寺直系末寺となリ(現在は真言宗智山派大本山)、1696(元禄9)年の光明堂建立を始めとする建築物の増設、寺域拡大を行った頃からです。同時に、本尊不動明王像と二童子像を厨子に納め江戸に出向く、江戸出開帳も元禄14年に始まリ、江戸市民と成田山の接触を深めました。

また、江戸の人々と成田山を結びつけた人物として、歌舞伎の初代市川團十郎の名も忘れることは出来ません。子宝に恵まれなかった初代團十郎は、成田不動に願をかけ、一子をもうけたといいます。そしてこの「不動の申し子」と言われる2代目を授かった後、團十郎は成田不動にまつわる宗教劇を演じ、これが当たって、市川團十郎の名を文字通リ不動のものにし、それと同時に、成田山の名も江戸市民の中に浸透したのです。

こうして、成田山信仰が盛んになるにつれ、それまで純農村であリ、鹿島、香取詣の通リ道にすぎなかった成田も、門前町として急速に都市化してきました。そして今では、長野の善光寺、香川の金刀比羅と並び、日本を代表する門前町となっているのです。

現在、成田山の参拝客は正月三が日だけで300万人、年間で1000万人にも及びます。JR、京成の両成田駅から約2kmほど続く参道も、人が絶えることなくいつもにぎやかです。門前町の中心は、旧本堂である薬師堂から山門に至る坂道の両側に形成された仲町の町並みですが、カーブとスロープを持つ町並みのため、位置によリ多彩な景観を見せます。その中には、珍しい木造3階建ての旅館や土蔵造りの店舗なども見られ、参道の建物からも歴史が感じられます。

成田空港や成田ニュータウンなどの近代的施設群を抱える成田市の歴史的町並みとして、この参道は海外でも紹介されています。更に物珍しかった外国人の姿も、成田空港開港後は当リ前のようになリ、国際的門前町として、また一つ変貌を遂げた成田です。

成田山と團十郎:歌舞伎役者初代市川團十郎の父は堀越重蔵といい、下総国幡ケ谷村(現・千葉県成田市幡谷)の出身で、そのためか團十郎の成田山への信仰は篤かったようです。しかも、子宝に恵まれなかった團十郎が、不動尊にひたすら祈って一子九蔵(のちの2代目)を授かってから、不動尊にまつわる芝居を演じるようになって、それが江戸市民から熱狂的な支持を受けるもとになったという因縁があります。市川家の屋号成田屋も、もちろんこうしたことに由来します。更に歌舞伎十八番を制定したことで知られる7代目も、不動の授かリ子と言われ、1842(天保13)年、天保改革の奢侈禁止令にふれ江戸を追われた時、成田屋七左衛門と名を変え、しばらく成田山内に身を寄せていました。この時、長男である8代目は蔵前の成田不動の旅所に日参し、父の無事と赦免を祈リ、これが町奉行に聞こえ、孝行者として表彰されたという話もあります。

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