日本のワイン発祥の地は、自然美あふれる水の里
JR牛久駅の東口から商店街を抜け、市役所通りを歩いて行くと、突然、西欧調のレンガ造りの建物に出くわします。日本最初の本格的ワイン醸造所「シャトー・カミヤ」です。
シャトー・カミヤは1903(明治36)年、浅草の「神谷バー」で知られる実業家・神谷傳兵衛氏によって建てられました。「シャトー」という称号は、原料栽培からボトリングまで、一貫して行う醸造所のみに与えられるものです。
その称号通り、シャトー・カミヤは創業以来、牛久でぶどうの栽培から醸造、ボトリングまでを行ってきました。しかし、近年、牛久は東京のベッドタウンとして急速に発展。住宅地でのぶどう栽培が困難になり、やむなく70年代半ばからは、山梨県の農家に生産委託をするようになりました。
が、現在も本館の他、明治時代に建てられた醸造場や倉庫などがそのまま残ります。これらレンガ造りの建物はレストランや資料館として利用され、一般に公開されています。特に地下の貯蔵庫には、ワインの熟成を促す、黒カビに覆われた500リットルの樽が並び、歴史の重みを感じさせます。園内には売店もあり、牛久ワインを始め世界のワインがそろっています。好みのワインを探してみるのも楽しいでしょう。また、「神谷バー」の名物・電気ブランも、ポケットサイズから一升瓶まで、ラインアップされています。電気ブランはもともと45度だったようですが、今のものは30度。でも40度のものも「電気ブランオールド」という名で売っています。電気ブランに何が入っているのかは知らないのですが、ブランデーをベースに、いろいろブレンドされているようです。カクテルのマンハッタンみたいな甘みがあるのはジン+フレンチベルモットが入っているんだろうかとか、薬っぽいのはハーブ?とか、想像をふくらませるのも楽しいかもしれません。そんな複雑な味が、カーッという喉ごしと共にやってきます。チェイサーがないときついです。
ちなみに、東京発祥のB級酒としては、この電気ブラン(ブランデー)と、ホッピー(ビール)、更にはホイス(ウイスキー)があります。ホッピーは今や全国区になっており、普通に小売りされていますが、ホイスは小売りはないので、幻の酒とも言われています。
シャトー・カミヤがある牛久と言うと、これはもう世界一の高さ(120m)を誇る牛久大仏で有名です。が、日本では珍しい淡水真珠や、「うな丼」発祥の地としても知られています。
淡水真珠は、池蝶貝という淡水生の二枚貝で養殖されます。海の養殖真珠と違うのは、人工核を入れない無核真珠という点です。貝自体の細胞を移植するという、いわば天然真珠に近い形での養殖なのです。そのため、大きさや形も貝を開けてみるまで分かりません。また池蝶貝は非常に多くの色を持つため、真珠の色もバラエティーに富んでいます。淡水真珠の魅力は、色や形の多様性と、中心まで真珠層で出来ていることによる丈夫さにあります。
淡水真珠の養殖から製品作りまでを行っている明恒パールは、国道6号沿いにあり、店内には美しい製品が並んでいます。ここでは加工の実演が見学出来る他、オリジナル・ジュエリーが作れるジュエリー教室にも参加出来ます。
淡水真珠の養殖場ともなっている牛久沼のほとりに、「カッパの碑」があります。昭和初期に活躍した日本画家・小川芋銭(うせん)を記念して、横山大観ら同好の人たちによって建てられたものです。芋銭は牛久沼をこよなく愛し、沼の周辺に伝わる妖怪・カッパの絵を好んで描いたことから、「カッパの芋銭」とも呼ばれていました。碑の近くには芋銭の旧宅・雲魚亭も残っています。
その牛久沼は、「うな丼」発祥の地と言われています。昔、江戸・日本橋に住む大久保今助という人が、常陸太田へ向かう途中、牛久沼の渡し場にある掛茶屋で好物のうなぎの蒲焼きを注文しました。ところが、いざ食べようとした時、「舟が出るよ〜」と声がかかり、慌てた今助さん、どんぶり飯の上に蒲焼きの皿をかぶせ舟に持ち込みました。向こう岸に着いて、さて食べようとすると、蒲焼きは熱い飯に蒸されて柔らかくなり、ご飯にもタレが染みこみ、今まで味わったことのないおいしさでした。
数日後、江戸へ帰る途中に、今助さんは再び茶屋に寄り、その話をして、うな丼を作ってもらいました。その後、この茶屋でうな丼を売り出したところ大当たりとなり、牛久沼の名物になったといいます。牛久沼南岸には、うなぎ専門の食事処も多く、この辺りは別名「うなぎ街道」と呼ばれます。小川芋銭も友人の横山大観らを連れて、よくうなぎを食べにきていたそうです。
また、牛久沼畔の小高い丘の上には、牛久城跡があります。中世、牛久地方を治めていた岡見氏の居城跡です。岡見氏は、小田原の北条氏側についていたため、秀吉の小田原攻めと同時に東国攻めで包囲され、1590(天正18)年に滅亡しました。その遺構は、中世城郭跡としては非常に分かりやすい形で残っているとされ、専門家の間では高い評価を得ています。
牛久は茨城県南西部、東西に細長い町域を持っています。南に利根川、西に小貝川や、大小の沼が点在し、自然美あふれる水の里でもあります。牛久まではJR常磐線で上野から55分。旧水戸街道・国道6号が、南北を走っています。
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