銘菓郷愁 - 羊羹の源流をしのぶ「いでゆむし羊羹」 静岡県伊東


羊羹といえば、まずは練羊羹のことを思い浮かべるようになったのは、いつ頃からだったのでしょう。練羊羹が作られるようになったのは、寒天が作られ出した1658(万治元)年から後のことだと言われていますが、もっと早く、1589(天正17)年に初めて作られ、1626(寛永3)年には、今のいわゆる羊羹色をした羊羹があった、という説もあります。

どちらにしても、19世紀になると、練羊羹が高級な味わいの上等品として、珍重され出したようです。

けれども、もともと羊羹といえば蒸した羊羹を指すのが普通のことでした。蒸し羊羹は、赤小豆の餡に小麦粉を加え、甘味の汁で練ってから、せいろで蒸したものでした。練羊羹は、これとは違い、輸入品の砂糖を使って煮詰め、それと赤小豆や寒天を練り混ぜたのですから、甘さがまず違います。砂糖は、江戸後期になっても、貴重品だったことには変わりなく、600gの値段が200文から300文はしました。職人の日当が、300文から400文という時代ですから、砂糖入り練羊羹の高級感も想像出来ようというものです。

しかし、練羊羹が登場してからは、蒸し羊羹もまた高級化して、小豆に、葛や砂糖を加えて作るようになります。味は甘くて、淡白、しかも値段は練羊羹よりも安かったそうです。このため多くの人に好まれ、奉公に出た店員さんでも喜んで買えた、というところから「丁稚羊羹」と言われたそうです。

「いでゆむし羊羹」は、古くからの蒸し羊羹の味覚を今に伝える逸品で、この蒸し羊羹は、伊東の温泉の水蒸気を使って蒸しています。伊東の温泉は、27度から57度と言われ、湧出量も膨大なものです。

「いでゆむし羊羹」はこの天然の熱を利用して作ったもので、小倉餡に甘露煮の栗を入れ、殺菌作用のある竹の皮で包んであります。

水蒸気を使って食品を蒸す、という製法は古くから行われていたもので、各地の神社に伝わる神饌の中にも、米の粉をこねて、せいろで蒸すという製法のものがたくさんあって、日本の菓子の原型を伝えています。蒸し羊羹も、伝統をしのばせてくれるもので、この「いでゆむし羊羹」も餡の甘さを極力抑え、栗のうまさを引き出して、しかも、餡の余韻を残すという、葛も使ったさらりとした銘菓です。

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