銘菓郷愁 - マルメロを包む「加勢以多」 熊本


マルメロという果実をご存じでしょうか。セイヨウカリンとも言います。マルメロもカリンもバラ科の落葉高木ですが、カリンは中国大陸の原産で、マルメロはイランやトルキスタン地方などが原産地とされます。我が国には、江戸時代の1630年代の初め、長崎に出島が造られ、ポルトガル人が収容された頃にもたらされたと言われています。

洋梨型で黄色のマルメロの実は、外側が綿毛で覆われ、甘酸っぱいような独特の芳香を発します。実そのものは堅くて渋く、生でかじるというわけにはいきません。

このマルメロの実を原料にしたのが、熊本の銘菓「加勢以多(カセイタ)」です。この名は、ポルトガル語の「カイシャ・ダ・マルメラーダ(マルメロ砂糖漬の箱)」からきていると言われます。初めの2句「カイシャ・ダ」がなまって、「カセイダ」になったのだろうというのです。

このマルメロの実を原料としたポルトガルの菓子を好み、茶席で用いたのが細川忠興でした。忠興は『細川三斎茶書』『細川茶湯之書』でも知られた茶人で、千利休に学んで茶の湯の奥義を極めた人でした。忠興は、茶の中に新しいものを進んで取り入れた人だったそうですから、「カセイタ」は好みに適った菓子でした。

やがて、マルメロは細川藩内で栽培されるようになり、「カセイタ」も作られ、徳川将軍家への献上品にも加えられるようになります。

19世紀初めの記録では、細川藩内の菓子屋でもマルメロを植えていたそうですから、「カセイタ」が揺るぎない肥後産代々の銘菓となっていた様子がうかがえます。

『恰園随筆(細川護貞)』によると、昔の「カセイタ」は次のようにして作ったそうです。

まず、マルメロの皮をむいて、実を四つ切りにして堅い部分を除き、柔らかくなるまで弱火で煮てから水気を切り、すり鉢ですって漉します。更に、砂糖とゆで汁を入れてかき混ぜてから再び漉して、とろ火でくず餅くらいの堅さになるまで煮ます。それを2日ほど杉の板の容器に入れて、出来上がりとなります。堅めのマルメロジャムと言っていいでしょう。今の「加勢以多」は寒天も使い、それをもち米の粉の皮で挟みます。口に含むと、濃厚な甘味を米の粉がやさしくくるみ込み、ゼリーのような舶来の味覚が楽しめる銘菓です。

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