銘菓郷愁 - 王朝食文化の香り「桔餅」 沖縄県那覇
「桔餅(きっぱん)」は、沖縄産の九年母(くねんぼ)を原料として作ります。九年母は、ミカン科の常緑小高木で、マレー半島からインドシナにかけてが原産地です。実は、温州ミカンよりも酸味が強く、沖縄では「クネンボ」ではなく、「クニブ」と呼びます。『万葉集』で、「アベタチバナ」と呼ばれている果実ではないか、とも言われています。
桔餅は、この九年母の皮と果実を使って作ります。果実は果汁を絞り取って種を除いてしまいます。皮は厚くてむけやすく、テレビン油香があります。桔餅は、この香りを巧みに利用しているのです。
九年母は、沖縄本島北部でしか採れないそうですから、原料そのものも貴重で、この菓子も、もともとは琉球王家への献上品でした。昔は、王朝の高位の人だけが口に出来たといいます。
桔餅は、中国・福州から伝来した菓子だそうで、伝わったのは江戸時代の1661年から73年頃のことでした。当時、沖縄は第二尚氏の王朝の頃で、10代尚質王と11代尚貞王の時代に当たります。ちょうど、琉球王朝の対中国朝貢貿易が盛んな頃でした。
琉球王朝では、早くから宮廷の調理人として「御料理座」というのを設け、包丁人という専門職が置かれていました。それらの人々が宮中の料理・菓子作りを司り、彼らは中国・福州に出かけて、中国菓子も学んだといいます。桔餅は、その伝統ある調理人にも知られていたに違いなく、九年母の香りを生かす独特の作り方などに、そのような沖縄の食文化の奥深さを感じさせてくれます。
桔餅は、九年母の皮などを刻んでから、砂糖を加えて、こね混ぜ、直径5cmほどの円盤形にして、表面を乾かします。それを砂糖の衣でくるみ、4日間天日に干して仕上げます。
天気の具合いや気温、湿度などで、砂糖の加減の仕方も変わると言いますから、細やかな気配りと手間のかかる仕事になるわけです。
桔餅は、食べる時、中心から6等分に切り、一口で食べられる大きさにします。口に含むと、外側の砂糖衣がまず甘さを伝え、やがて、ほろ苦いような柑橘類の味が絡んできます。甘いと思えば、さにあらず、ほろ苦いと言えば、また違い、互いに相手を称えて譲らず、絶妙のバランスを保った銘菓です。
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