時代に即応し新しい作風を生む九谷焼の魅力

能美市寺井町は石川県南西部、北陸の空の玄関口・小松空港から、車で15分ほどの距離にあります。古くから九谷焼の産地として知られ、九谷焼は全生産量の約8割をつくっています。寺井には九谷陶芸村があり、九谷焼資料館や美術館、陶芸館、九谷焼団地協同組合、石川県九谷焼技術研修所などが建ち並んでいます。

九谷焼というと、絢燗豪華な壷や、大皿などを思い浮かべる人が多いでしょう。ある意味では、そのイメージは的を得ています。九谷焼の魅力はなんと言っても、色絵装飾のすばらしさにあるからです。

九谷焼の世界では、「絵付を離れて九谷はない」と言われるほど。その特徴は、一般に九谷五彩と呼ばれる赤、黄、緑、紫、紺青の見事な色彩効果と豪放優美な絵模様に現れています。

しかし、絵模様自体は時代によって変化しており、これが九谷とは一概に言えない多様さを有しています。その多彩な作風を可能にしたのは、九谷に陶画工の歴史がなかったからだといいます。本職の絵師に絵付けさせたことが、かえって上絵窯としての発展を促すことになったようです。

九谷では今も、素地づくりと、絵付けとは分業制になっています。ろくろで成形し、紬薬を施して白磁の器を焼く窯元と、その素地に絵付けをし、完成品として焼成する窯元は、別々になっているのです。

そのため、九谷焼の焼成は一般に素焼、本焼、上絵窯、錦窯と4回もの工程を経ることになります。他の窯業地のような一貫生産はまれで、これもまた九谷の特色と言えるでしょう。

上絵は、その時代その時代の作家が、独自の画風でさまざまな試みを施しています。だから、一般の人が思い描く九谷焼のイメージも、古九谷窯の青手や、吉田屋窯、あるいは海外貿易用として一世を風靡した九谷庄三風など、実際には人によってまちまちなのではないでしょうか。

九谷は今も変化を続けています。それが、九谷の魅力であり、伝統でもあるのです。

※取材に協力して頂いた武腰敏昭さん(写真2枚目)は今年7月28日に亡くなられました。謹んでご冥福をお祈りします。武腰さんは、取材当時、日展評議員、石川県陶芸協会理事長を務めておられ、主に陶壁などの大きなものを制作、九谷陶芸村にある巨大モニュメントも武腰さんの作品です。

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