伝統を守りながら新しいものを育てる南会津の太鼓胴産地

福島県の南端、尾瀬の玄関口として知られる南会津町に、「ミニ尾瀬」と言われる駒止湿原があります。この湿原に群生する水芭蕉は、がくの部分に特徴があり、世界でもここだけの品種とされ、多くのハイカーが訪れます。

町の中心・田島は、江戸期には幕府直轄領として、南会津地方の産業、文化の中心地となっていました。毎年夏に行われる「田島祇園祭り」は800年の伝統を持ち、歴史の深さを物語っています。

この田島は、江戸時代から続く太鼓胴の産地です。太鼓は木をくり抜いた胴に、牛などの動物の革を張ってつくられます。昔から分業制がとられ、田島を中心とする南会津地方は胴までをつくり、江戸や上方へ出荷していました。

会津西街道を通って、会津若松の問屋に納められた胴は、そこから陸路江戸へ、また阿賀野川を下って新潟経由で海路大坂へ送り出されていました。問屋経由であったせいか、大正時代までは、会津が太鼓胴の産地であることは知られていましたが、実際にどこでつくられているかは特定されていませんでした。

最盛期の大正時代には、全国の太鼓胴の8割ほどが、南会津地方で生産されていたといいます。太鼓の胴をつくるには、最低でも直径60cm以上の原木が必要となります。当時、南会津地方には、樹齢100年以上の木が豊富にありました。太鼓職人は山に寝泊まりしながら、こうした原木をくり抜いていました。

しかし、豊かな自然に恵まれた南会津でも、近年は大木が激減。やがて原木は北海道産が主流となり、胴堀り職人もいなくなってしまいました。そんな中、南会津町にある川田太鼓工房は、南会津産の木にこだわり、アイデアと技術で新しい太鼓胴を生み出しました。

名付けて「ハイテク太鼓」。ハイテクといっても、電子太鼓でもなければ、中にICが入っているわけでもありません。南会津町特産のナラの木の一枚板を、樽のように張り合わせて太鼓胴に仕上げる製法です。

近年は、各地に太鼓のチームも出来、海外で公演するほどになっています。そうした太鼓ブームや町おこしのために、巨大な太鼓もつくられるようになりました。ハイテク太鼓は好みの音、好みの大きさに仕上げられるそうで、そうした需要にも合致しています。更には、世界的に希少となった大木の保護のためにも、また国産材の活用という点からも、注目すべき太鼓胴と言えるでしょう。

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