加太の海に浮かぶ要塞の島
和歌山市で最近、人気観光地として脚光を浴びているのが、加太の海に浮かぶ無人島「友ケ島」です。島は、明治時代から第二次世界大戦まで、軍事要塞として使用されていて、今は廃墟と化した赤レンガの施設群が残っています。その独特の風景がネットで話題となり、「ラピュタっぽい」とか「バイオハザード的」などと評され、一躍超人気スポットになったのです。
友ケ島は、地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の総称で、要塞跡があるのは、沖ノ島になります。明治時代に大日本帝国陸軍が、外国艦隊の大阪湾への進入を防ぐために、沖ノ島の5箇所と虎島に砲台や防備衛所を造りました。これらの島は、第二次世界大戦までは一般の立ち入りは禁止されていました。戦後、友ケ島全体が瀬戸内海国立公園に指定されたことにより、終戦時に爆破処分された第2砲台以外は、各種施設が、比較的良好な状態で残ることになりました。現在は、要塞時代をしのばせる砲台跡を巡るハイキングコースも設けられ、人気の観光地となっています。
友ケ島までは、加太港から船で片道20分ほど。ハイキングコース沿いに、第2砲台跡を始め、展望台、第3砲台跡、桟橋などを見て回って約2時間30分。夏場は、磯遊びをする家族連れでも賑わいます。
友ケ島のある加太は、古くは「潟見の浦」と呼ばれ、『万葉集』にも詠まれた景勝地でした。その後、四国・九州の大名が参勤交代に加太の港を利用するようになり、交通の要衝として発展。また、紀伊国屋文左衛門を始め、諸国の回船が加太港から江戸へ荷を運ぶようになり、商家や旅籠が軒を並べ、港町として栄えました。
しかし、現代においては、景勝地や海上交通の要衝としてよりも、鯛の一本釣りなど関西屈指の漁場としての方が有名。また、供養のため2万体とも言われるひな人形が奉納されている淡嶋神社や、友ケ島の要塞跡など、観光的な目玉でも注目を集めています。砲台跡は、友ケ島ばかりでなく、本土側にも残っており、休暇村紀州加太の中に深山砲台群、和歌山市立青少年国際交流センターに加太・田倉崎砲台があります。特に深山砲台は、休暇村周辺の散策道沿いにかなりいい状態で残っています。一方の加太・田倉崎砲台跡を見学するには、青少年国際交流センターで受付をする必要があります。
この青少年国際交流センターが建つ丘の下には、雛流しの神事で有名な淡嶋神社があります。拝殿には所狭ましと人形がぎっしりと並び、初めて目にする人は、ギョッとすると思います。しかも境内には、木彫りの熊や招き猫、信楽焼の狸など、さまざまなものが供養のために納められていて、かなりワンダーランド化しています。
淡嶋神社は、一寸法師のモデルとも言われる少彦名命を祭神としています。淡島神社では、少彦名命が医薬の神様であることにちなんで、婦人病や安産・子授けなどにに霊験あらたかとして、裁縫の上達、人形供養など女性に関するあらゆることに御神徳ありとして祭っています。江戸時代、紀州徳川家では、女の子の初節句には人形を淡嶋神社に奉納しており、古くから女性の一生の幸せを守る神様として崇敬を集めてきました。
その流れなんでしょうけれども、本殿裏の末社には、子授け祈願のために下着を奉納する場所があります。「下着を納める方は格子の中へ投げ入れて下さい」と貼り紙があるので、神社でもちゃんと認めているようです。かつては、絵馬と一緒に自分の髪の毛など体の一部を奉納していたそうですが、いつからか、一度身につけた下着を奉納するようになったとのこと。いったい、いつ、誰が始めて、風習化したものでしょうね。未来の研究者たちが、この風習をどう考察するのか、興味深いところです。
さて、この加太に、平わかめの巻き寿司という郷土料理があります。江戸時代の1802(享和2)年に、大坂で刊行された米料理の専門書『名飯部類』にも、「かためずし」として登場します。「かた」はもちろん「加太」、「め」は若布(わかめ)の「布」です。ちなみに、『名飯部類』には、飯の炊き方から、変わり飯の作り方、雑炊や粥の作り方と共に、33種のすしについての記述があります。実は、従姉妹の長男が、有名な寿司ブロガー(https://sushi-blog.com/)として活躍しているんですが、彼が江戸時代に生まれていたら、こんな書を出していたんじゃないかなどと妄想がふくらみます。
で、平わかめというのは、加太でしか作られていない加工わかめです。作り方は、わかめを一本ずつむしろに広げてすき間なく埋め、乾燥して縮んだら他のわかめでまた穴を埋めていきます。しかも縮みすぎないよう陰干しで乾燥させていく必要があり、大変手間がかかります。のりの代わりに、そんな平わかめで巻いた寿司はまさに絶品です。
私が、「いなさ」という料理屋さんで頂いた時は、平わかめの作り手はもう1軒のみだと聞きました。最近、その方も、やめてしまったらしいと知ったのですが、「いなさ」のホームページ(https://www.inasa.net/)には、「わかめ巻寿司」がメニューに載っているので、どなたかが、跡を継いで作り続けているのかもしれません。
コメント
コメントを投稿