ミーハー心をくすぐる明るい山陰 - 米子
米子市は山陰のほぼ中央、島根との県境にあり、古くから交通の要衝として栄えました。江戸期には米子城が築かれましたが、城主がほとんど不在だったこともあり、城下町としてよりも商人の町として発展。そんな米子の特性を表すものに「逃ぎょい逃ぎょいと米子に逃げて、逃げた米子で花が咲く」という俗謡があります。
これは米子が開放的で、移住者を寛容に受け入れる土地であることを表しています。江戸時代の米子は藩主直轄ではなく、一部の自治が認められており、それがこうした風土を醸成したと考えられています。そんな古くからの土壌は今の時代にも受け継がれ、よく米子の人は進取の気風を持つ新しもの好きだと言われるそうです。
米子を取材したのは、2019年6月のことでした。前日に島根県の益田で一本取材をし、翌朝の山陰本線で米子に入りました。米子駅は、境線の起点駅でもありますが、2駅先の伯耆大山駅で分岐する伯備線も、米子駅まで乗り入れており、事実上、伯備線の基点駅にもなっています。
更に、東京と出雲市を結ぶサンライズ出雲の停車駅でもあり、東京を夜の10時に出発した寝台特急は、翌朝9時過ぎに米子駅に到着します。一方、上りは米子を夜の7時56分に発車し、東京駅には翌朝7時8分に到着します。
ところで境線は、米子駅から境港駅まで、約18kmを結ぶ路線です。全16駅で、途中には米子空港駅もあります。境港と言うと、漫画家の水木しげるさんの出身地であることから、「ゲゲゲの鬼太郎」で町おこしをしているのは有名ですが、境線もこれにあやかって、「ゲゲゲの鬼太郎」のイラストを車体に描いたラッピング列車を走らせています。現在、メイン・キャラクターである鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男、ねこ娘、こなき爺、砂かけ婆の6種類の列車が運行しています。また、境港駅が「鬼太郎駅」、米子駅が「ねずみ男駅」など、駅名にも、妖怪の名前が愛称として付けられています。
ちなみに、2019年の取材では、地元の方が車で案内してくださった上、取材後は空港まで送ってくださったので、境線には乗りませんでした。ただ、2010年に宍道湖のシジミを取材した帰りにJRで米子空港へ向かい、その時、ねこ娘列車に乗ることが出来ました。で、このねこ娘列車は美人運転士さんが運転していたのですが、交渉をしたものの、残念ながら撮影NGで、写真を残すことは出来ませんでした。
さて、前置きが長くなりましたが、2019年の取材は、米子の地蔵信仰がメインでした。
米子市を流れる加茂川の周辺には、70体を超えるお地蔵さんが見られます。これらは、町の中心部に集中しており、これだけ多くの地蔵群がある都市は、全国的にも珍しいと言われています。
加茂川は、昔から大雨が降ると増水し、子どもたちが、しばしば水害の犠牲になりました。江戸時代の安永年間(1773~81)に、出雲の日御碕神社造営に携わった大坂の宮大工・彦祖伊兵衛が、それを哀れみ川で命を落とした子どもたちの供養のために地蔵を造り、橋のたもとなど36カ所に奉納しました。その後、日本の地蔵信仰のルーツとも言われる、中国地方の最高峰・大山の影響もあり、米子の地蔵信仰はますます盛んになりました。
そんなお地蔵さんの側には必ず、紅白の札が貼られたボードがあります。これは札打ちといって、身内に不幸があった時、亡くなった人の霊を守ってもらうため七日ごとにお地蔵さんに白い札を貼り、四十九日目には赤い札を貼るという風習です。
「南無地蔵大菩薩」と書かれた札に、故人の戒名と没年齢を書き入れ、家族で市内のお地蔵さんを回るのだそうです。四十九日に貼る最後の赤札は、米子市湊山公園にある清洞寺跡に貼るのが習わしで、ここは札打ち供養打ち止めの聖地とされています。
こうしたお地蔵さんの中で、特に有名なのが、加茂川にかかる覚証院橋のたもとにある「咲(わら)い地蔵」です。「咲う」と書いて、「わらう」と読める人は少ないでしょう。なにしろ、以前には、漢字検定1級の問題として出題されたこともあるそうです。
「笑い」に「咲い」という漢字を当てているのは、『古事記』にも見られます。それは、天照大御神が天岩戸に引きこもり、世界が闇に包まれてしまったため、神々が集まって「天照大御神様、出て来て大作戦」を敢行する、かの有名な「天の岩戸神話」の箇所です。
天照大御神が、岩戸を開けたのは、天宇受売命(あめのうずめのみこと)の踊りを見て、神々が笑ったのがキッカケでしたが、まさにここに「咲い」が使われているのです。
「爾くして高天原動みて、八百萬の神共に咲いき」(すると、高天原が鳴動するばかりに、八百万の神々が一斉にどっと笑った)
漢字の「咲」は、音読み「ショウ」、訓読みが「さ(く)」「わら(う)」の二つで、意味は「わらう=笑」と「さく。花がさく。つぼみが開く」となります。で、「咲う」は、特に屈託のないわらいを意味し、本当におかしくてわらう時に使われます。
話が脱線しましたが、その「咲い地蔵」の近くに、「すえよし通り食通街」という飲み屋横丁があります。米子は商都と言われるだけあって、かつては米子駅の近くから元町通り、法勝寺通り、本通りと約700mにわたってアーケードの商店街が連なっていました。しかし、郊外に大型ショッピングモールが出来て状況が一変。商店街は、空き店舗率が55%のシャッター通りとなってしまいました。
そして、老朽化したアーケードの修繕費や電気代が重荷となる中、アーケードを撤去する動きが広がりました。「すえよし通り食通街」の表通りも、そんな商店街の一つで、アーケード撤去後、「食通街」の看板は急激に劣化が進みました。2019年の取材で訪問した時は、写真のような状態でしたが、2017年までは劣化が始まってはいても、まだ原型をとどめていたようです(ブログ「私的 街づくり」参照)。
と言っても、私が気になったのは、看板ではなく、隣の「ケイ食・喫茶 キャープ」です。「ケイ食」も気になりますが、そもそも「キャープ」って?
が、取材中だったので、店に入る時間はなく、後ろ髪を引かれる思いで、キャープの前から立ち去ったのですが、後で「キャープ」的な英語をいろいろ想像してみたものの、どうしても該当する単語が思いつかず・・・。まさか、鳥取弁で「カー」を「キャー」と発音するとか? など、突拍子もない考えまで浮かびました。
「レッド・ライオン」は、スコットランドの国章ですし、ウイスキーの「レッド・ライオン」は、ブレンド専門の会社で、アイラ・モルトをベースにした、優れたブレンド技術で定評のある会社です。そして、アイラ・モルトのアイラ島は、「ウイスキーの聖地」と呼ばれる島で、毎年5月最終週から6月初旬にかけて、ウイスキー・フェスティバル(アイラ・フェスティバル)が開催されます。
カーディアス(Cardeas「友情」)は、そのアイラ・フェスティバルで発売されるシリーズで、強烈な香りと味が特徴のラフロイグのウイスキーです。ラフロイグは、ウイスキー愛好家の間でも好き嫌いがはっきり分かれるクセの強いお酒で、「個性派スコッチ」と言われているそうです。私は、飲んだことがないので、もしここが、スコッチにこだわったバーであったら、立ち寄りたかったなあと残念に思ったものです。
取材記事→「暮らしやすさ日本一。進取の気性に富む山陰の商都」
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