首都圏から近い温泉場・湯河原そぞろ歩き

湯河原駅
「手湯」がある湯河原駅

湯河原までは、東京駅から東海道本線の快速で約1時間半。新幹線で熱海まで行って、1駅戻るという手もあり、これなら1時間もかかりません。周辺の箱根や熱海に比べると知名度はだいぶ低いと言わざるを得ないのですが、首都圏から気軽に利用出来る日帰り温泉として、関東では、人気の観光地になっています。

湯河原の地名は、河床から温泉が自然湧出していたことに由来します。温泉場としての歴史は古く、万葉集にも詠まれているほどです。

「足柄の 土肥の河内に 出づる湯の 世にもたよらに 子ろが言はなくに」

湯河原温泉
この歌は、万葉集の中で唯一、温泉を詠んだもので、その歴史にちなんで、湯河原温泉の中心部には万葉公園があります。園内には、万葉集に登場する草花が植えられ、「日本の歴史公園100選」にも認定されています。

万葉公園の中には、「独歩の湯」という足湯があります。湯河原を愛した国木田独歩にちなんで名付けられた足湯ですが、湯河原には独歩の他にも、夏目漱石や芥川龍之介、島崎藤村など、日本を代表する文豪が静養に訪れていました。

温泉と言えば、夕食後のそぞろ歩きも楽しみの一つですが、最近は、宿泊客はいるのに温泉街が衰退しているという所が多く見られます。これは、宿が大型化し、館内での飲食や娯楽、土産物を扱う売店などの充実に力を入れ、宿泊客を外出させずに宿の利益を大きくする、いわゆる「囲い込み」をするようになったためです。結果、温泉と土地との結びつきが薄れ、やがて温泉街自体を衰退させ、それが宿にも跳ね返ってくることになりました。

ご多分にもれず湯河原も、かつての面影はなく、老舗旅館も廃業してしまうような状況にありました。そんな中、廃業した旅館の再生プロジェクトが見られるようになり、2019年には江戸後期に温泉宿を営んでいたという老舗旅館「富士屋旅館」が17年ぶりに復活。現在は、2016年に廃業した若草荘のリニューアルプロジェクトが進行中で、今年2月にはFacebookを通じて、若草荘大掃除イベントの参加者を募集するなど、面白い取り組みが始まっています。

ふじむね遊技場
ふじむね遊技場

そうした状況にあっても、湯河原の取材では、出来れば温泉街の雰囲気も入れたいと、歩いて街の中を巡ってみました。すると、温泉場には今も3軒の射的場が残っていることが分かりました。そのうちの1軒で撮影をしていると、レトロな雰囲気を求めてか、宿泊客が何組か訪れ、昔ながらの射的に講じていました。

また、歩いていると、興味深い店もいくつかあり、そのうち酒屋さんと豆腐屋さんに入って、取材もさせてもらいました。

灘屋
元銀行の金庫をワインセラーに使う灘屋

湯河原温泉郵便局の隣にある「灘屋」は、ちょっと変わった造りになっています。聞くと、もともとは銀行の建物だったらしく、その元銀行の金庫を利用したセラーには、ワイン好きが泣いて喜びそうな逸品が取りそろえられていました。地元の方に伺うと、実はこの店、著名人も通うという知る人ぞ知る名店らしく、店内にはこだわりの地酒や焼酎が並んでいました。

取材の日は、たまたまヨーロッパから仕入れてきたワインの試飲即売会をやっていたのですが、年に何回かはこうした企画を行っているそうです。また、1000円で選りすぐりの地酒が味わえる利き酒セットがあって、買う前に味見が出来るのもこの店の特徴となっています。

一方、宿泊した宿「ホテル四季彩」の近くにあった豆腐店「湯河原十二庵」は、2009年に開業しました。取材をコーディネートしてくださった方が、親御さんをご存じだったこともあり、早朝の仕込みも撮影させて頂きました。

湯河原十二庵
秘伝豆を使った湯河原十二庵オリジナルのすくい豆腐

ご主人の浅沼宇雄さんは元システムエンジニアで、実家も豆腐店ではない全くの新規参入組。同窓会で、友人たちと話している時に出た「子どもたちが安心して食べられるものがない」という言葉が、全ての始まりでした。そして試行錯誤を重ね、最終的に大豆を原料とした豆腐にたどり着いたのだそうです。

大豆は生産者のはっきりした国内の契約農家から仕入れ、湯河原のおいしい水で豆腐作りをしています。手間を惜しまずシンプルに、昔ながらの製法で丁寧に豆腐を作ることを心掛け、全くのド素人から、今では全国豆腐品評会(うまい豆腐選手権)で入賞するほどの力を付けています。特に品評会で評価を得た、山形の秘伝豆を使った絹ごしは絶品。週末限定で、湯河原温泉入口に近い店舗で食べることが出来ます。

かねか水産
かねか水産の干物加工所

この他、湯河原には、湯河原みかんや相模湾の新鮮な魚など、おししいものが目白押しです。更に、朝から行列が出来るラーメン店「らぁ麺 飯田商店」や、福浦漁港前の「運海丸 しらす直売所」、湯河原温泉おかみの会プロデュースの「湯河原みかんのジャム」など、湯河原グルメがいろいろあります。

ちなみに、取材中、ずっと車で湯河原を案内してくださった榎本香咲花さんは、地元の甘夏を使って正統的なマーマレードを作っています。榎本さんは、20年ほど前からマーマレードを作り、友人たちに分けていました。そんな中、イギリスで暮らした経験のある姪御さんから、本場イギリスで開催される「ワールド・オリジナル・マーマレード・アワード」の話を聞き、2018年、これに参戦。この初挑戦で、なんと銀賞を獲得しています。帰りに、このマーマーレードを頂くことが出来たのですが、実際、本当においしく、我が家では家内に独占されてしまいました。

湯河原みかん


取材記事→「多くの文人に愛された湯けむりとみかんの香り漂う町


コメント

このブログの人気の投稿

悲しい歴史を秘めた南の島の麻織物 - 宮古上布

愛媛県南部の初盆行事 - 卯之町で出会った盆提灯

銘菓郷愁 - 米どころ偲ばせて「養生糖」 新潟県新発田

『旅先案内』都道府県別記事一覧

岩手の辺地校を舞台にした「すずらん給食」物語

上州名物空っ風と冬の風物詩・干し大根 - 笠懸町

越後に伝わるだるまの原型「三角だるま」

地域の復興に尽くすボランティアの母 - 八幡幸子さんの話

飛騨高山で味わう絶品B級グルメとスーパージビエ

日本最北端・風の街 - 稚内