水の町・郡上八幡の南天玉

郡上八幡城
郡上市というと、延べ32夜にわたって行われる盆踊り「郡上踊り」で有名です。市となったのは2004年で、この年、八幡町など郡上郡の7町村が合併して誕生しました。ただ、中心地である八幡町の通称「郡上八幡」の名で呼ばれることも多く、八幡城も郡上八幡城と名乗るほど、郡上八幡の名が知られています。

その郡上八幡の取材は、郡上市の冬の風物詩となっている鯉のぼりの寒ざらしに合わせて行いました。

郡上八幡には、約430年前から受け継がれる「郡上本染」という伝統工芸があります。郡上本染には、天然の藍を発酵させて生地を染める藍染と、カチン染めの2種類があり、鯉のぼりにはカチン染めの技法が使われます。カチンとは染色用の墨のことで、昔はトクサを焼いて炭化させたカチン棒を水に溶いて染料にしていたところから、カチン染めと言います。ちなみに今では、墨汁に大豆のしぼり汁を混ぜて作るのが一般的なようです。

寒ざらしは、鯉のぼりの目やうろこなど、染めずに白く残す部分に置いたのりを洗い落とす作業で、毎年、大寒の日には、郡上本染のPRも兼ねて小駄良川で行われます。この行事は既に50回以上になり、今ではすっかり郡上八幡を代表する冬の風物詩として定着。この日に合わせて、全国からカメラマンが駆け付け、川の両岸を埋め尽くします。

鯉のぼり寒ざらし

風物詩として、毎年取材に来ている新聞社などは、慣れたもので、川の中に入って撮影するために、胴付長靴を用意しています。私もカメラマンの田中さんも、そこまでは想定していなかったのですが、取材に協力してくださった地元の方が、手回し良く胴付長靴を2足用意していてくださり、田中さんはそれを履いて川の中へ。

私は、ディレクションをするから、と丁重にお断りして、川岸から撮影風景を見ていました。と、田中さんが胴付長靴を履こうとしているのを見て、「用意がいいですね。やっぱり必要ですよね」と声を掛けてきた女性がいました。聞くと、新聞社の方でしたが、新人さんなので、そこまでは思い至らなかったようです(って、私たちも同じですが・・・)。

鯉のぼり寒ざらし

それを聞いて、私の分を貸してあげたところ、その女性はうれしそうに胴付長靴を履いて川の中へ。田中さんから、アングルの指導も受けながら、寒ざらしを一生懸命撮影していました。

さて、その郡上八幡は、水の町として知られます。町の中を歩いていると、いつでもどこでも水の流れる音が聞こえてきます。八幡町の碁盤の目の町並みには、用水路が張り巡らされ、そこを勢いよく水が流れているのです。

郡上八幡

これらの用水路は、江戸時代の大火をきっかけに整備されたもので、郡上八幡の町中を流れる用水路には、全部で六つの系統があります。

その一つ、300年の歴史を持つ柳町用水は、旧武家地の歴史的町並みを残す地区を流れ、簡易カワド(洗い場)を作るための堰板を設置出来る家も多く見られます。堰板は文字通り、水をせき止めるためのもので、家の前の用水路にはめ込んで水位を上げ、そこで洗い物などをします。

郡上八幡
また小駄良川の西岸、旧越前街道沿いにある尾崎町では、背後の山から湧き出る6カ所の水舟や井戸が「組」と呼ばれる昔ながらの共同体によって維持されています。水舟とは2~3層に分かれた水槽で、尾崎町では山の湧き水をまず飲み水として使い、次に野菜や食器洗いにと、上手に使い分けていいます。

ウォーター・ランドスケープデザイナーとして活躍する渡部一二さんは、こうした郡上八幡特有の水事情に注目。渡部さんによると、上水道の敷設により、昔ながらの水の使い方をやめてしまった町が多く、郡上八幡にも同様の危機が迫っていたそうです。危機感を抱いた渡部さんは、郡上八幡の水環境のすばらしさを訴えましたが、水があるのは当たり前だと思っていた住民の人たちには、なかなか伝わらなかったようです。

そんな中、たまたま1985年に郡上八幡にある湧水「宗祇水」が「名水百選」第1号に選ばれました。そして、これを機に町の人々の意識が変わり始め、水に特化した町づくりの気運が一気に高まりました。私たちは毎日、炊事、洗濯、風呂、トイレと、大量の水を使い、そのまま流していますが、水を奇麗に使い回すことを前提とした、郡上八幡の水事情を少し見習いたいものです。

南天玉
ところで、郡上八幡で、珍しいものを見つけました。新酒が出来たことを知らせる造り酒屋の「杉玉」に似た、「南天玉」です。明治時代から続くニッキ飴の老舗「桜間見屋」さんの軒先にぶら下がっていました。

地元の方に聞くと、郡上八幡は、ナンテンの出荷量日本一の産地なのだそうです。ナンテンは、「難を転じる」と言われ、縁起物として正月飾りなどに使われます。また、徐々に色が赤から黒に変わるため、「赤字が黒字に転じる」と、特に企業や商人に人気があると聞きました。

ちなみに、花言葉は、「私の愛は増すばかり」「機知に富む」「福をなす」「良い家庭」と、これまたいいことずくめ。そんなナンテンで作られる「南天玉」は、郡上八幡南天生産組合が生みの親。毎年12月に開催されている「ふるさと南天まつり」で販売され、大人気になっています。ただ、数に限りがあり、簡単に入手出来るという代物ではないようです。

取材記事→「水の流れる音が聞こえる奥美濃の城下町

コメント

  1. 高校の頃だったか大学生だったか忘れましたし、誰が出ていたのかも覚えていないのですが、郡上おどりだけは脳裏に焼き付き、なんという踊りの曲かは知りませんがメロディーはいまでも口ずさめます。そんなにインパクトがあったのは、どうしてだろう?行ったことないんですよ。

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    1. 郡上おどりって、延べ32夜も行われるだけあって、曲もたくさんあるみたいですね。
      http://gujo.com/odori/lyrics/gujo/g_menu.html

      どの曲だったんでしょう?

      削除

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