漆黒の川面に浮かぶ幻想的な光 - シラスウナギ漁
ふるさと納税のサイトを見ると、人気の返礼品に、和牛やカニ、高級フルーツなどと並んで、ウナギの蒲焼きが出て来ます。そんな、みんな大好き食材のウナギですが、今では天然ものに出会う機会などめったになく、実に99%が養殖ウナギとなっています。
ウナギの養殖で有名なのは、静岡県の浜名湖ですが、都道府県別の生産量を見ると、静岡県は第4位。1位鹿児島県、2位愛知県、3位宮崎県の順になっています。ちなみに、市町村別に見ると、第1位は愛知県西尾市で、同市一色町産ウナギが、愛知県全体の80%を占めています。これに次いで多いのが、鹿児島県の志布志市で、こちらは県全体の約5割を生産しています。
ウナギの稚魚・シラスウナギは、冬から春にかけ、黒潮に乗って東アジア沿岸を回遊し川を上ります。日本では鹿児島や宮崎、徳島、高知、静岡などの川に遡上します。この時、シラスウナギは、潮に乗って遡上してくるため、大潮前後にはシラスウナギを追う漁師たちが、川に繰り出します。
シラスウナギ漁の最適期は、大潮時の干潮から満潮にかけて。また、明かりに集まってくる性質があることから、シラスウナギ漁は新月の夜、川面をライトで照らして行われるのが一般的です。冬の夜、ウナギが遡上する川の河口付近では、漆黒の川面に黄色や緑色の光が浮かび上がり、遠目からはまるでホタルが飛び交うように見えます。
完全に人工的な光なんですが、何とも言えず幻想的な光景のため、夜中にも関わらず、多くのカメラマンがシラスウナギ漁の写真を撮りに訪れます。
私が、最初にシラスウナギ漁の撮影に挑戦したのは、2014年の1月31日から2月1日の新月の夜でした。その時は、高知県四万十市の四万十川で撮影に臨んだんですが、時間帯の問題だったのか、気象条件の問題だったのか、あるいは場所が見当違いだったのか、1隻の船にも巡り会えませんでした。
そして、満を持して臨んだのが、2017年2月26日〜27日の新月でした。これは、雑誌の企画で、カメラマンの田中さんも同行しての取材だったので、3年前の行き当たりばったりとは違い、ちゃんとその道のプロにレクチャーを受けてから撮影に入りました。場所は徳島市の吉野川。取材に協力してくださったのは、吉野川河口にある徳島市第一漁業協同組合の和田純一専務理事でした。
和田さんも、以前はシラスウナギ漁に出ていましたが、シラスウナギは風のある日の方が多いそうで、強い風が吹く冬の夜中に水しぶきを浴びながらの漁はきついため、最近はもっぱらマスコミや写真愛好家の対応を引き受けているそうです。
「今でも、風が弱い日を狙って年に2、3度、川に出てみることもあるんですが、私が行くと、若い漁師から『今日は和田さんが来てるからだめだ』などと言われ、からかわれます(笑)」
和田さんはそんな話をしながら、漁や船について説明してくれました。
以前は直接川に入り、岸部近くで漁をしていましたが、現在は船に発電機を積み、船尾に集魚灯を付けての漁が一般的。吉野川では600Wから1KWのLED電球で川面を照らし、舵を股で挟んで船をバックさせながら、川面に浮かぶシラスウナギを1匹ずつタモ網ですくっていくそうです。
とくしまマルシェ |
取材をしたのは2月26日の新月で、深夜1時頃に干潮、朝7時前に満潮の予想でした。和田さんによると、条件的には未明の2時から5時頃が一番いいだろうとのことで、時間を見計らって吉野川へ向かうことにしました。
ただ、それまでどうするか、それが問題です。次の日は、遊山箱の取材も予定していたので、まるっきり寝ないというのも厳しく思い、その日は、毎月最終日曜日に行われる「とくしまマルシェ」の取材を日中に済ませ、和田さんにお会いして、レクチャーを受けた後、早めに食事をして仮眠を取ることにしました。
で、宿泊している駅前のホテル近くで店を探し、「良さそう」と直感的に思った「安兵衛」という居酒屋に入ることにしました。早い時間なので、開いている店があるか心配だったのですが、こちらの店は、徳島では珍しく、朝から呑める店として、呑兵衛には知られた存在らしく、ついていました。
安兵衛の隣には、姉妹店の「味祭(あじさい)」という店が、また向かいには「まこと」という居酒屋がありましたが、いずれも日曜は定休日でした。そのため、朝の10時半から店を開け、日曜日も営業している「安兵衛」さんの存在は、我々にとってまさに天の助けでした。
とくしまマルシェ |
しかも、メニューがかなり充実していて、揚げ物、焼き物、刺身に天ぷら、焼き鳥といった定番の他、鯨カルビや鯨カツなど、そそられるものも多く、何を食べるか悩むほど。とはいえ、夜中にはメインの取材が控えているので、自重しながらも、楽しい夜というか夕方を過ごしました。
そして、事前に和田さんから聞いていたポイントへ向け出発。すると、いました、いました。暗闇の中に、いくつもの光が浮かんでいました。橋の上から撮影を始めましたが、気配を感じて周囲を少し歩いてみたところ、他にも写真を撮りに来ている人たちが何人かおり、中には、撮影ツアーとおぼしき一団もいました。
こちらは、田中さんがいったんOKを出したので、場所を変え、川のそばに下りてみることにしました。すると、岸の近くで直接川に入り、水中に電球を沈めてシラスウナギを待つ人がいました。 和田さんから聞いてはいましたが、船を持たなくても、こうしてシラスウナギ漁は成立するようです。
こうしてとったシラスウナギは、「買い子」と呼ばれる仲買人を通して養鰻業者に売られます。12月や1月にとれた稚魚はその年の土用までに成魚に育てられますが、それ以降は来年まで飼育しなくてはいけないため、取引価格が下がるそうです。取材をした時期のシラスウナギは1kg80万円前後が相場と聞きました。もっともシラスウナギ1kgと聞いてもピンときませんが、1kgはどんぶり1杯ほどとのことで、1匹当たり120~130円になるようです。
取材記事→「さまざまな表情を見せる水都・徳島の魅力」
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