エビデンスに裏打ちされた日本三大美肌の湯・嬉野温泉
嬉野と言えば、日本三大美肌の湯と言われる嬉野温泉で有名ですが、他にも500年以上前から栽培されている嬉野茶や400年の伝統を持つ肥前吉田焼など、長い歴史に培われた産業でも知られます。また、塩田川と長崎街道という水陸二本の動脈に挟まれた河港都市・塩田津は、居蔵造りの町家が軒を連ね、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
建設中の九州新幹線長崎ルートに「嬉野温泉駅」(仮称)の設置が予定されていますが、現在は市内に鉄道駅がなく、嬉野へ行くには車を利用することになります。私は2度ほど、取材に行っていますが、2回とも長崎空港からレンタカーを借りて、嬉野に入りました。嬉野市は佐賀県ですが、佐賀空港からは約50km、長崎空港からは約30kmと、断然、長崎空港の方が近いからです。
箱庭のように整った嬉野の茶園 |
で、長崎空港からだと、すぐに大村ICで長崎自動車道に乗れ、嬉野ICまで行けるため、かなり楽な行程になります。ただ、全て下道を走っても時間的には数分しか違わないので、景色を楽しみながら海岸線を通る下道ルートの方がいいかもしれません。ちなみに、途中の千綿駅は、海が見える駅として知られ、昭和の面影を残す木造駅舎ということもあって、鉄道ファンならずとも立ち寄りたくなる場所です。
さて、嬉野茶の500年や肥前吉田焼の400年と、長い歴史があることは先述しましたが、嬉野温泉には、神功皇后にまつわる伝説があり、それが嬉野の地名の由来になったと言われています。その伝説とはこうです。
水玉模様が代名詞の肥前吉田焼 |
神功皇后と言えば、『日本書紀』では170~269年の人となっているので、その歴史は嬉野茶や肥前吉田焼どころの騒ぎではありません。まあ、あくまでも伝説ですが・・・。
ちなみに、長崎出島の医者として来日したドイツ人のシーボルトが、1826(文政9)年の江戸への旅を中心に、当時の日本の風俗や地理を記した名著『江戸参府紀行』には、嬉野の温泉について、その泉質などが書かれています。これは、シーボルトの下、「薬剤師」として来日したハインリッヒ・ビュルガーが調査した結果を基にしたものでした。
また、江戸後期に、京の儒医・橘南谿が書いた『東西遊記』や、備中国岡田村(現在の倉敷市真備町岡田)の地理学者・古川古松軒が著した九州地方見聞記『西遊雑記』などにも、嬉野温泉のことが書かれており、江戸時代にはかなり知られた温泉であったことがうかがえます。
塩田津の町並み |
嬉野温泉の泉質について、シーボルトはビュルガーの調査を基に考察していましたが、嬉野温泉の湯はナトリウムを多く含む重曹泉で、非常にぬめりがあり、角質化した皮膚を滑らかにします。近年、その弱アルカリ性のお湯が肌をつるつるにするとして「日本三大美肌の湯」にも選ばれ注目されていますが、嬉野にはこの泉質を利用した料理もあり、名物となっています。
それは、温泉湯豆腐です。嬉野の湯で豆腐を煮ると、表面が溶け出し、煮汁が豆乳色に変わります。そして角が取れ、とろとろになった豆腐を、薄い塩味が付けられた煮汁と一緒にすすると、柔らかい食感とまろやかな味が堪能出来ます。
発祥の店と言われる「宗庵よこ長」は温泉街の中心部にあります。初代が、豆腐を温泉水で炊くと、とろけるような食感になることに着目し、料理に活用したことが始まりだそうです。1957(昭和32)年のことで、以来、直営豆腐工場「豆匠よこ長」で嬉野産大豆100%の豆腐を作り、こだわりの湯豆腐を提供し続けています。
ところで、日本三大美肌の湯ですが、他の2カ所がどこかと言うと、島根県奥出雲町の斐乃上温泉と、栃木県さくら市の喜連川温泉だそうです。これは、日本唯一の温泉科学の調査機関・公益財団法人中央温泉研究所が、温泉の成分などを基に選定したもの。「三大○○」の中には、こじつけや根拠があいまいなものも時には散見されますが、こと「日本三大美肌の湯」に関しては、今流行のエビデンスのある「三大」ものということになります。
そんな嬉野の温泉街に、乙姫様のモデルとされる豊玉姫を祭る豊玉姫神社があります。豊玉姫は海の神であるワタツミの娘で、子孫繁栄や水の恵みを司る女神です。また、神武天皇(初代天皇)の父方の祖母、母方の伯母としても知られ、豊玉姫を祭る神社は全国にあります。有名なところでは、鹿児島県霧島市の霧島神宮、同南九州市知覧の豊玉姫神社、宮崎県高千穂町の高千穂神社や天岩戸神社などで、九州に多いようです。
嬉野では、嬉野川に古くから住んでいる大なまずが、豊玉姫のお使いであるとの言い伝えがあり、境内には白磁の「なまず様」が、美肌の神として祭られています。この白い「なまず様」は古来、肌の病に効能があるとされ、地元の人のみならず湯治客からも信仰を集めていました。そして現在も、豊玉姫神社には美肌を祈願する参拝客が絶えず、「なまず様」も嬉野温泉のシンボルとして親しまれています。
取材記事→「不易流行。500年の歴史に新たな一歩を記す『嬉野茶寮』」
コメント
コメントを投稿