うたせ船漁と焼きエビ、芦北町のフォトジェニックな風景

 

うたせ船

ある雑誌の編集に携わっていた頃、日本全国の風物や産業などを取材して紹介する企画を担当していました。そのため、取材のネタを集めるため、伝統工芸や郷土料理などを、調べまくっていました。それをテーマごとに分類し、場所がかぶらないよう配慮しながら、毎月、取材に当たっていました。

ネタ集めは、当然のことながら、編集者の好みが出ます。だいぶ前、私より一回り上の先輩編集者と二人で企画を組んでいた時は、どちらかと言うと伝統工芸や歴史関係の取材が多かったように思います。しかし、私より一回り以上、年下の女性編集者と組むようになってからは、どうも二人の思考が似通っていたのか、第一次産業が多くなってきました。取材候補の打ち合わせをして、先々の企画まで決めた後、一覧にしてみたら、ほとんど食べ物ネタだったなんてこともありました。そして、勢いのままではいかんなと反省しながら、企画を立て直すわけですが、そうしたことが度々あって、自分たちの学習能力に疑問を抱いたものです。

焼きエビ雑煮

そんな取材候補の中に、正月の雑煮に欠かせない食材がありました。ひとくちに雑煮と言っても、住む場所によって、だいぶイメージが違うと思います。角餅か丸餅か、すまし汁か味噌仕立てかなど、地方によってだいぶ違いがあります。その中で、私が取材したかったのが、宮城県の焼きハゼと、熊本県南部と鹿児島県北部の焼きエビでした。

焼きハゼは、仙台雑煮に欠かせない伝統食材で、焼きハゼから取っただし汁で、大根やニンジン、ゴボウ、しみ豆腐などを煮ます。それを、角餅を入れたお椀に移し、かまぼこ、セリ、イクラに、だしを取ったハゼも載せるのが、宮城の伝統的な正月料理「焼きはぜの雑煮」です。この焼きハゼについては、最も伝統的な製法を継承していた石巻市長面浦の生産者が、2011年の東日本大震災で被災。その後の復活劇についても書きたいところですが、それだけで長くなってしまうので、こちらについては、またの機会に譲りたいと思います。

焼きエビ

一方の焼きエビは、「海の貴婦人」と言われる「うたせ船」による伝統漁でとられるクマエビを使います。焼きエビ作りと共に、うたせ船漁も絵になる素材で、地元の方の協力で、どちらも取材させて頂けました。

クマエビは、クルマエビの仲間で、熊本では脚が赤いことからアシアカエビと呼びます。味が濃厚で、刺身でも塩焼きでもおいしいのですが、それを焼いて乾燥させたものでだしを取るというぜいたく雑煮です。

11月から2月までがクマエビの漁期で、港に揚がったエビは、すぐに近くの加工場に運ばれます。新鮮なうちに竹串に刺し、囲炉裏で焼き上げた後、わらで結んで1週間ほど陰干しして乾燥させます。その様子から、地元では「下げエビ」、一般には「吊るしエビ」と呼ばれます。

おれんじ食堂

焼きエビの取材をした芦北町は、7月の豪雨で土砂崩れが多発し、佐敷川も氾濫。11人が亡くなり、1人が行方不明となるなど、大きな被害を受けました。重要なアクセス手段であるJR九州肥薩線と、肥薩おれんじ鉄道も被災。肥薩おれんじ鉄道は、この11月1日、不通が続いていた八代~佐敷間が復旧し、約4カ月ぶりに全線で運行を再開しましたが、肥薩線は、芦北町の3駅を含む八代~吉松間で、依然として復旧の見通しが立っていないようです。

11月1日には、芦北町の佐敷駅で、人気の観光列車「おれんじ食堂」の出発式があり、「再び元気に走りだす姿は被災者にとって希望の光」と副知事があいさつし、沿線住民らが全線再開を祝いました。一方、SL人吉が走る肥薩線のうち、芦北町の白石駅は、明治時代に開業した当時のままの駅舎で、SLと共に人気があり、鉄道ファンならずとも1日も早い復旧を待ち望んでいるところです。

デコポン
そんな芦北町では、温暖な気候を生かした柑橘類の栽培が盛んで、甘夏の生産は日本一、またデコポン(不知火)でも全国有数の生産を誇っています。そんな中、今、注目のデコポンがあると、地元の方に教わったのが、「肥の豊」という品種です。「不知火」から選抜育成されたもので、糖度が高く、酸味は少ないそうです。芦北ではこの「肥の豊」への転換がいち早く進んでいるとのことで、この取材以来、冬から春にかけて、強い甘みとみずみずしさを併せ持つ芦北デコポンの登場を心待ちにしているのですが、なかなかこちらではお目にかかれません。

この夏の豪雨で、デコポンにもだいぶ被害が出ているようで心配していますが、ふるさと納税の返礼品に「ハウスデコポン」があったので、とりあえず復興支援の思いも込めて、芦北へのふるさと納税は、これにしようかと考えています。

取材記事→「不知火海の冬の風物詩うたせ船漁と吊るし焼きエビ - 芦北

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