鉄火巻きにおでん、焼き鳥、私の中のグルメタウン姫路

 

勝三寿し

姫路に行って、必ず寄る店があります。

姫路駅から徒歩3分の「勝三寿し」です。このお寿司屋さんを知ったのは、今から25年ほど前のこと。清流・千種川の取材で訪れた上郡の方が、一緒に夕飯を食べましょう、と私とカメラマンのK氏を乗せて車を走らせること約50分。着いたのが、「勝三寿し」だったのです。

その方が子どもの頃、仕事で姫路に行ったお父さんのお土産が、勝三寿しの鉄火巻きだったそうです。で、席に着くなり、まずは鉄火巻きを注文。出て来たのは、私が知っている鉄火巻きではありませんでした。確かに、海苔で巻いてはいますが、切られておらず、巻いてそのまま出してきた感じです。

しかも、食べてみても、普通の鉄火巻きとは明らかに異なります。具は、切り身ではなく、すき身。それに醤油ではなく、特製のタレを塗って、酢飯と共にパリパリの海苔でふわっと巻いたのが、勝三寿しの鉄火巻きです。

後で聞くと、昔は、姫路駅の周辺で、勝三寿しの鉄火巻きを片手にパチンコしているおっちゃんがいたり、ここの鉄火巻きを持って、近くにあった大劇という映画館に行ったりしていたそうです。それほど姫路っ子の生活になじんでいたのでしょうね。

大衆食堂かどや

ここは、カメラマンの田中さんや、ライターの砂山さんとも一緒に行きました。前に、兵庫県加西から高知へ移動する際、丸亀で1泊した話を書きましたが(丸亀・一鶴、多度津・いこい、琴平・紅鶴。香川県の骨付鶏3選)、実はこの移動の時、加西の方のアドバイスでルートを変更したことで、早めに姫路に到着しました。そこで、その時間を利用して勝三寿しに行き、いつも通り、鉄火巻きを食べてから、丸亀に向かいました。

田中さんとの取材時には、前から行きたかった大衆食堂「かどや」にも入ることが出来ました。この時のメインの取材は、古くから姫路を中心とした播磨地方で作られてきた、なめし革でした。また、明珍火箸など、江戸時代から続く伝統の技を紹介。更に、ネタの一つとして、姫路おでんも取り上げました。

姫路では、おでんを生姜醤油で食べます。「かどや」さんは、その姫路おでんの元祖的なお店で、撮影にご協力頂きました。

ちなみ、生姜醤油は、かける派とつける派があり、80年以上続く「かどや」さんは、かける派でした。地元では一般的な食べ方だったため、以前は関東煮やおでんとだけ呼ばれていましたが、2006年に姫路の食でまちおこしを考えるグループが「姫路おでん」と命名。今では、姫路を代表するB級グルメとなっています。

更に、「かどや」さんには、私の好きな大衆食堂のあるべき姿・ガラスケースに惣菜が並んでいます。で、ケースの中には、焼き魚やハンバーグなど、家庭的なおかずがずらり。


さて、この取材では、コーディネートをしてくださった方のご好意で、明治43年創業の蔵元が直営する酒蔵レストランで、珍しいすき焼きをご馳走して頂きました。それが、綿菓子牛鍋で、蔵元の知人であるフレンチのシェフから「バーバパパをすき焼きに使ったら見た目にインパクトが出るのでは」とアドバイスをもらい、始めたそうです。

綿菓子牛鍋
バーバパパというと、日本でも人気の絵本を思い浮かべてしまいますが、フランス語の「Barbe à papa」は、「パパのひげ」のことで、転じて「綿菓子」を意味する言葉として使われているのだとか。もともと、綿菓子は砂糖ですからね、理にかなっているわけで、それがお肉の上にのると、確かにインパクトがあり、今風に言えば「映える」すき焼きって感じです。

実は、姫路にはあと2軒、気になるお店があります。1軒は、編集部のK嬢が発見した焼肉屋さんで、もう1軒は、駅近くのビルの2階にあった焼き鳥屋さんです。

焼肉屋の方は、明洋軒と言って、黒光りする天井が歴史を物語る古くからの焼肉店だそうです。残念ながら、私はタイミング合わず、一度も行ったことがありませんが、後日、田中さんと砂山さんもこの店に入り、おいしい焼肉を堪能してきたと聞きました。うらやましい。

もう1軒の焼き鳥屋さんは、姫路の知人に連れて行って頂いた店で、駅に近い路地に建つ雑居ビルの中だったと思います。階段には、いろいろな荷物が置き去りにされ、とても飲食店が営業しているようには見えませんでした。店の中に入っても、その辺から拾ってきたのではとおぼしき、ふぞろいのソファや椅子が、適当に置かれており、店という感じではありませんでした。

我々は、カウンターに座ったのですが、腰掛けたのは日本酒の樽でした。中には、自家製ブレンドの日本酒が入っていると言っていましたが、ホントなのか冗談なのか、いまだに分かっていません。他に客はなく、知人と店主の会話を聞いていると、お父さんの代からやっている店のようでしたが、電話で予約をした時だけ、店を開けているふうでした。そんなことで、商売が成り立つのか、まったくもって不明。ビルのオーナーで、焼き鳥は趣味でやっているんだろうかなど、勝手に想像をふくらませていました。

焼き鳥は、カウンターの前で七輪を使って炭でじっくり焼いてくれました。めちゃくちゃおいしいのですが、メニューはそれだけ。で、お酒は、自家製ブレンドという、確かに何だかよく分からない味の日本酒のみ。まるでスピークイージーに来たみたいで、とてもうれしい経験でした。

その後しばらくして、その知人が亡くなられてしまい、今となっては、店がどこのビルにあったのかすら分からず、幻のスピークイージーとなっています。

取材記事→「伝統の技が今に息づく世界遺産の町 - 姫路

コメント

  1. 綿菓子を乗せたすき焼き、食べたことがあるような気がします。どこの店だったか記憶がないんですが、たぶん姫路だったような気がします。たぶん「菊」がつく酒屋さんですよね?

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    1. そうです。「灘菊」でした。

      でも、正直、映える灘菊より、どこだったか全く見当がつかないスピークイージーの方が、断然インパクトがありました。

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