赤城山麓にある世界的にも貴重な農村歌舞伎舞台

上三原田の農村歌舞伎舞台

昨日の徳島・神山の農村舞台に続いて、今日は群馬県の旧赤城村(現・渋川市赤城町)にある農村舞台のお話です。

旧赤城村は群馬県のほぼ中央、赤城山西南麓に広がり、地域の西端を利根川が流れています。自然の豊かな土地で、春のいちごから夏のブルーベリー、秋のりんごと、季節ごとのフルーツ狩りが楽しめます。

その旧赤城村の上三原田地区に、世界的にも貴重な機構を持つ農村歌舞伎舞台が残っています。1819(文政2)年に水車小屋の大工をしていた永井長治郎が建てたものと言われます。

農村歌舞伎は村芝居、地歌舞伎などとも呼ばれ、江戸期から明治にかけて、全国で盛んに行われました。それらの舞台は茅葺きの大きめな物置小屋といった感じで、多くは神社の社地に建てられました。こうした地歌舞伎は今も各地に残っていますし、歌舞伎舞台もかなりの数、残存しています。

上三原田の農村歌舞伎舞台

しかし、それらあまたの歌舞伎舞台の中でも、長治郎が建築した上三原田歌舞伎舞台は異彩を放っています。特徴としては、ガンドウ機構、遠見機構、柱立廻式廻転機構、セリヒキ機構の四つが挙げられます。

ガンドウ機構とは、三方の板壁を外側に倒して、舞台を2倍以上の広さにします。遠見機構は舞台奥に遠見と呼ぶ背景をつけ、奥行きを深く見せるものです。柱立廻式廻転機構はいわゆる回り舞台で、回転部が6本の柱により支えられ、これを押すことによって回転させます。普通の回り舞台は独楽廻式や皿廻式が使われており、上三原田歌舞伎舞台のものは独特の方式となっています。最後のセリヒキ機構は小舞台を天井・奈落の双方からせり上げ、せり下ろす二重セリ機構で、世界的にも例を見ない珍しいものです。

1960(昭和35)年にはこうした特殊な舞台機構が評価され、国の重要有形民俗文化財に指定されています。


更に、舞台操作にも技術を要し、公演中は80人以上の人間が、奈落や屋根裏に入り、拍子木を合図にさまざまな仕掛けを動かします。95(平成7)年には上三原田地区180戸により、上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会が発足。舞台操作を始め、これまた特殊な小屋掛けや桟敷掛けの技術伝承に取り組んでおり、彼らの手で物置小屋が、華麗なる歌舞伎舞台へと変身します。

毎年11月には、この舞台で地元の中学生のこども歌舞伎や農村歌舞伎が上演されます。

徳島県の神山町でもそうでしたが、こうした伝統文化が見直される一方、少子化や過疎化により、物理的に維持が困難になるものもあります。その典型が学校です。文部科学省の調査では、2002~17年に、全国で7583校が廃校となりました。同省では、これら廃校の再活用を推奨しており、この調査では、建物が現存する廃校のうち74.5%の4905校が、何らかの形で再利用されていることも分かりました。

赤城工房時代の旧棚下小学校玄関
旧赤城村の棚下地区にあった旧棚下小学校もその一つ。児童数減少により、98年に廃校となりましたが、翌99年4月、創作活動の拠点となる「赤城工房」として生まれ変わりました。群馬県立沼田高等技術専門校インテリア木工科の卒業生が中心となってスタートしたため、当初は木工関係ばかりでしたが、その後、若干入れ替わり、画家や陶芸家も加わりました。東京でイラストレーターをしていた人が、たまたま赤城工房を紹介するテレビ番組を見て訪問。自然あふれる周辺の環境や、温もりが感じられる木造校舎が気に入り、仲間に加わった例もありました。

私が訪問した時には、木工作家や陶芸家、画家、イラストレーターなどが活動しており、玄関にはそれぞれの作品が展示されていました。その脇の図書室には児童書が残されており、地域の子どもたちが自由に出入り出来るようになっていました。また、毎年11月には「蘇る心の風景」という企画展も開催され、工房が地域に根付いた存在になっていることがうかがえました。

棚下不動の滝
棚下不動の滝
この赤城工房の近くに、日本の滝百選にも選ばれている「棚下不動の滝」があります。赤城山の溶岩が作った37mの断崖から流れ落ちる滝で、滝裏の崖が洞窟状になっているため、滝を裏からも見ることが出来ます。

赤城山のふもとにあるだけに、棚下不動の滝に限らず、旧赤城村は豊かな自然に恵まれています。そうした自然を再発見し、子どもたちが安全に自然と触れ合えるようにと作られた施設「赤城自然園」もあります。

この自然園、今でこそ4~11月の火曜日を除く毎日、開園していますが、以前は開園日より休園日の方が多い時期がありました。それは、「『本物の自然園を見てもらおう』をテーマに、歳月をかけて園内を作り続けていた」ためで、2010年までは完全公開をせず、時々、特別開園日を設けていたためです。

「本物の自然園」を「作る」というのは、ちょっとおかしい気もしますが、自然に近い形の造園ということなのでしょう。約36万坪の園内は、三つのゾーンに分かれています。
その一つ「四季の森」は赤城山周辺に自生する植物を楽しむことが出来る美しい森。また「自然生態園」は昆虫を自然に近い環境で観察することにより、生態系の仕組みを知ることが出来る森。そしてもう一つの「セゾンガーデン」は日本一のシャクナゲ園を含む、見事なイングリッシュ・ガーデンとなっています。

赤城自然園
三つのゾーン全てを回ると約2時間、歩数にしておよそ1万歩だそうで、森林浴をしながら、ウォーキングも出来るので、このコロナ禍でも楽しめる施設の一つではないでしょうか。関越自動車道赤城ICから約10分とアクセスもいいので、私も近々、運動不足解消のため訪問してみようかと思っています。

※赤城工房は、校舎の老朽化による損壊の恐れがあり、残念ながら昨年3月で、20年にわたる創作工房としての歴史に幕を降ろしたそうです。

コメント

  1. 素晴らしく工夫された芝居小屋ですね。
    何気ない小屋が一変してこの広がりを見せる様は凄いの一言です。継承、維持管理も大変かと思いますけど残したい文化ですね。写真の出し物「絵本大功記 十段目 尼ケ崎の段」各務原市にも「村国座」と言う地歌舞伎が残っていて、3地区持ち回りで小学生が披露しています。8月〜10月半ばまで猛練習です。同時に若衆、年寄衆も付きっ切りで大変です。

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    返信
    1. ホントにそうですね。農村舞台は結構残っていますが、人口減少や過疎化が進むと、つないでいくのも大変でしょう。岐阜県は地歌舞伎日本一のようですから、それぞれ地域地域で受け継いでいってほしいです。

      削除

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