厳しくも美しい大自然。秘境しれとこを行く
夕日に染まる流氷(プユニ岬) |
斜里の取材に同行してくれたのは、定期観光バスを運行している斜里バスの社長(当時)斉藤勉さんでした。しかも、斉藤さんは、写真を趣味としており、撮影ポイントも熟知していました。この時の撮影を依頼したカメラマンのI氏は、私が担当していた雑誌の写真コンテストで審査員を務めており、斉藤さんは、その常連でもありました。
そのため、I氏がこんなロケーションがあれば、とつぶやけば、それはどこそこに行けば撮れるとか、後少し行くと木々の間隔が空いて視界が開けるとか、ピンポイントで撮影スポットへ案内してくれました。また、タラの寒干しを撮影する際には、高所作業車を用意しておいてくださり、俯瞰で干し場の光景を撮影させて頂きました。
そんな至れり尽くせりの取材が終わり、知床グランドホテルのロビーで、斉藤さんやホテルの桑島常禎社長(当時)らから、流氷にまつわる話を伺っていた時のこと。同席者の一人が、流氷オンザロックの話題を持ち出し、流氷を読者プレゼントにしたら、と話が展開。すると桑島社長が、ホテルでは冬の間、流氷を常設展示しているので、それをきれいにして提供しましょうと言ってくださったのです。ひょうたんから駒、この斜里取材の掲載号では、知床グランドホテルの協力の下、その年接岸した正真正銘の流氷を読者にプレゼントすることになりました。
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斜里は、寛政年間(1789~1801年)に日本人が入った漁業の集落で、明治になってから、本格的な開拓が始まりました。斜里平野での畑作、酪農、斜里やウトロの漁港を基地とした漁業、それに知床での林業などが、町の根幹を支え、農水産物や木材の加工なども盛んです。大自然に抱かれた町は、まさに人と自然との調和の姿を示し、知床国立公園内100平方m運動というナショナル・トラスト運動の中心地にもなっています。
秋。サケ、マスたちが、一斉に、そんな斜里の川をさかのぼります。ヒグマがそのサケを捕らえ、長い冬眠に備えて腹ごしらえをします。オジロワシやオオワシも、北の地方から渡って来ます。やがて知床連山が雪を被り始め、流氷の訪れと共に本格的な冬がやって来ます。
斜里の人たちは、
「今日は、流氷がいないなア」
「昨日まで、いっぱいいたのに」
などと、まるで流氷が生き物であるかのような言い方をします。それだけ、身近な存在だということでしょう。
ウトロ港から望む知床連山 |
知床の冬は、長く、厳しい季節です。しかし、冬はまた、人と自然の距離を近づける季節でもあります。エゾシカは雪深い山の奥から、雪の少ない海岸の方へ逃れて来ます。流氷に乗って、アザラシやトドもやって来ます。オジロワシとオオワシの渡来数は、流氷の接岸と共にピークを迎えます。通りすがりの旅行者でも、エゾシカやオジロワシの姿を簡単に目にすることが出来ます。そんな豊かな自然が、知床にはあります。
知床半島の北側を占める斜里は、町のほぼ半分が、国立公園に指定されています。公園は半島を南北に分ける知床連山と、これを囲む海岸線からなっています。オホーツク海に面する斜里側の海岸は、半島中央部のウトロから先端の知床岬まで100mを超える断崖が連続しています。これらの断崖には、フレペ、カムイワッカ、カシュニなどの滝がかかり、直接海に落ちています。海鳥たちのコロニーも多く、特にウミウの繁殖地としては極東最大級となっています。
また、知床には食物連鎖の頂点に立つ大型動物が、さまざまな環境の中で棲息しています。森林や草原にはエゾヒグマやエゾシカ、渓流にはシマフクロウ、海岸や沿岸にはオジロワシやオオワシ、それにトドやアザラシがすんでいます。食うものと食われるものという自然本来の関係を維持しながら、こうした北海道特有の動物種が、ほとんど欠けることなく残っています。知床半島の自然が、いかに原生的な状態で維持されているかを示す証明とも言えるでしょう。
春。流氷が去った海に、知床の川で生まれたサケやマスの子が、一斉に出て行きます。流氷の下で育ったプランクトンが海中に広がり、魚たちのエサとなります。流氷は海底を耕す、と言われるゆえんです。知床の厳しい冬も、自然には温かいのです。美しい生命の営みが、そこにはあります。
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知床観光の基点となる港町ウトロは、斜里市街から国道334号線で40分。観光船のりばや定期観光バスのターミナルがあります。港を見下ろすプユニ岬は夕日の名所で、冬には流氷が海を覆う様を一望出来ます。ウトロから5kmほどの所にある知床自然センターでは、動植物や交通など国立公園内のあらゆる情報が手に入ります。また海へ向かう遊歩道があって、断崖の中腹から海へ流れ落ちるフレペの滝やウトロ灯台を望む展望台へ通じています。
国道は半島を横切って羅臼へ至り、知床横断道路と呼ばれています。この道を登りきったところが知床峠。標高738mとさほど高くはないものの、その自然環境は本州中部の2500mに匹敵します。登るにつれてエゾマツやトドマツの林から、ダケカンバ、更にハイマツの林へと森林相が変化していくのがよく分かります。厳しい条件下に生きるダケカンバは樹高が低く、はうように枝を広げた異様な姿をしています。このダケカンバやカエデが色づくのは9月中旬あたりから。
一方、知床自然センター付近で国道から分岐する知床公園線は知床五湖へ。原始林の中に点在する大小五つの湖には、知床連山を映す一湖から順に巡る遊歩道があります。知床ではエゾシカやキタキツネなどの野生動物に出会えるのも魅力ですが、彼らの生活圏であることを頭に入れておきましょう。
知床五湖から先は砂利道の林道になり、10kmほど先のカムイワッカの滝を経て知床大橋が終点となります。この先は陸路のない「秘境」。半島の先端へはウトロから観光船が出ていますが、環境保護のため上陸は禁止されています。
知床横断道路と知床公園線は、いずれも11月から4月下旬まで通行止め。2月上旬、流氷の訪れと共に冬の観光シーズンを迎え、ウトロには再びたくさんの観光客が集まります。
※取材したタラの寒干しは、知床の冬の風物詩。全国で生産されているタラの寒干し9割が北海道産。しかも、そのほとんどが斜里産です。ただ、こちらはスケトウダラの寒干しで、前のブログに書いた、マダラを使う稚内の棒鱈とは少々異なります。
もう何年前になるでしょう。女満別空港でレンタカーを借りて、道東から道北、道央を走り回った時の最初の宿泊地が斜里でした。
返信削除翌日知床五湖に行くと熊が出没したらしく、一湖だけで諦めて、そのまま羅臼町まで行きました。
知床はもっとゆっくりしたい所でした。
最初はエゾジカが珍しく見るたびに車を止めて写真を撮ってましたが、山に入ると🦌だらけ😆もう珍しくもなくなって完全無視でした。
でもあの時、羅臼の街中までエゾジカが出たとニュースになってました。10数年前ですが、生態系がおかしくなり始めていたんでしょうね。
確かに、エゾジカはめちゃ多いですね。私も同じような経験があります。
返信削除気候の問題もあるのでしょうが、そもそも、人間の方が踏み込みすぎたのかもしれません。