雄大で美しい景観を誇る石鎚山と面河渓

小田深山
小田深山

面河渓に初めて行った時は、担当していた雑誌の写真コンテストによく応募されていた、松山在住のアマチュア写真家・菊野善之助さんに案内して頂きました。菊野さんは当時、コンクリート製品などを製造する㈱キクノの会長職にあり、週末はほとんど松山市内の写真仲間と撮影に出かけていました。石鎚山と面河渓は、そうした撮影スポットの一つで、特にお気に入りの場所だと話していました。

松山市内でレンタカーを借り、約束の地点で菊野さんをピックアップし、面河渓を目指しました。松山から面河までは、国道33号線で久万高原を抜け、御三戸交差点から石鎚方面へ入るルートと、久万高原から国の名勝・古岩屋を通るルートがあります。菊野さんのお勧めは古岩屋ルートで、松山からは約65kmの道程でした。

面河に入って、菊野さんがまず初めに案内してくれたのが、石鎚スカイラインでした。面河渓の入口となる関門から土小屋まで全長18km、約30分のドライブコースです。菊野さんによると、5月の新緑、10月の紅葉期が特にいいとのこと。

面河渓
亀腹
途中には長尾展望台があり、石鎚山が眺められます。頂上から少し下った石鎚山の胸の辺りには、日本名湖百選の一つ御来光の滝が見えます。終点の土小屋周辺にはアケボノツツジの群落もあり、5月中旬、ピンクの花を咲かせ、新緑の石鎚山と、絶妙の取り合わせを見せてくれるそうです。土小屋は、石鎚への登山口ともなる場所で、シーズンには登山者やハイカーでにぎわいます。

愛媛県で「お山登り」といえば石鎚登山を意味するほど、石鎚山は愛媛を代表する山です。標高1982mは、西日本の最高峰。古くから山岳信仰の山として知られ、日本七霊山の一つにも数えられています。

土小屋から先は瓶ケ森まで、ブナ林の中を林道が走ります。石鎚山は年に300日は霧が発生すると言われ、ブナの巨木が霧の中に浮かぶさまは幻想的。5月から6月の新緑の頃には、霧が緑に染まり、ことのほか美しい景色を見せてくれます。

面河渓は、その石鎚山の森が造り出した渓谷。石鎚は全山森に覆われ、豊かな水を生みます。水は大地を流れ、長い年月をかけて谷を刻んできました。面河渓には「面河本流」と「鉄砲石川」という二つのルートがありますが、いずれの谷も樹海、断崖、滝、奇岩などが次々と現れ、自然の造形美を堪能させてくれます。

面河の入口となる関門から1kmほど歩くと、五色河原に出ます。水の青、苔の黒、岩の白、藻の緑、それに秋の紅葉を加えて五色に彩られることから、その名がついたと言われます。少し先には亀腹と呼ばれる岩の壁がそそり立ちます。亀腹は高さ約100mの一枚岩。この辺りは広い岩床が続き、格好の休憩所となっています。周辺には国民宿舎や山荘、旅館、キャンプ場管理事務所などがあり、面河渓探勝の基地となっています。

面河本流のルートは、ここから鶴ケ背橋を渡り、渓谷の右岸を行きます。こちらのルートにはキャンプ場が2カ所設けられ、途中には紅葉河原、下熊渕、上熊渕などの景勝が続きます。橋を渡ってから1kmほど先には、石鎚山登山道があります(頂上までは石段道を登って約7km)。上熊渕を過ぎ、熊渕橋を渡った所に水呑獅子の奇岩があり、真白い花崗岩の川床が開けています。


その谷の奥には、虎ケ滝が白いしぶきをあげています。この辺りはコバルトプルーの水と白い川床のコントラストがきれいです。この先には、石鎚スカイラインの長尾展望台から望んだ御来光の滝があります。が、登山道を探すのも大変なほどなので、本流ルートはここで引き返すのが懸命でしょう。

もう一つの鉄砲石川ルートは、亀腹から屏風屋根の下をトンネルでくぐり抜け、谷沿いに約2kmの行程となっています。こちらは本流に比べて川床が広く、本谷より屈曲した渓谷美を見せてくれます。谷は50~70mの垂直な岩壁に囲まれ、典型的な箱型渓谷を形成しています。

岩壁の表面も花樹岩特有の板状節理を見せ、岩壁の上の原生林と共に、山水画のような景色を楽しむことが出来ます。特に兜岩、鎧岩など、名のついた岩はその特徴をよく表し、自然の雄大さを感じさせてくれます。このルートには滝も多く、雌滝、雄滝の他、支谷に千段の滝(落差120m)、布引の滝(80m)などの美しい滝が見られます。

こうしたさまざまな渓谷美が楽しめる面河渓ですが、その最大の特色はなんといっても水の美しさにあります。丸みを帯びた白い一枚岩を滑るように流れる水は、これ以上澄ませることは出来ないと思える透明感を持ります。あちこちにある渕が、水の存在を教えてくれなれば、水があることを忘れてしまうほどの清らかさなのです。

実際、フィルムで撮影した写真の現像が上がってから、水の存在感のなさに、がっかりしたのを覚えています。もちろん、心霊写真じゃあるまいし、水が消えてしまうはずはありません。水がきれいすぎて、見えないのです。しかも、面河本流は真っ白な花崗岩の川床ときています。


面河で1泊した後、菊野さんが、ちょっと寄り道をして行きましょう、と案内してくれたのは、久万高原を超え、面河渓から50kmほどの小田深山でした。ここも、菊野さんのお気に入りスポットで、木々の色を映す水面が美しい場所だと教えてくれました。更に、森の中の道を走っている時、次のカーブを曲がった所で停めてください、と指示をされました。

何があるのだろうと、考えながら車を走らせたものの、着いてみたら、ただの森。あれ? と思ったのですが、菊野さんは落ち着いたもので、あの木です、と。そう言われて見ると、確かに、新緑を背景に、フォトジェニックは木が手前にありました。さっきの小田深山の水面といい、アマチュア写真家の皆さんは、よくぞまあピンポイントで撮影対象を見付けるものだな、と改めて感心させられた撮影行でした。

コメント

  1. 菊野善之助さんのお名前はL誌でよく見ていたので記憶にあります。いまでも元気で撮影されているのでしょうか?

    ロケハンなしで渾身の一枚ってなかなかないですね。やはり地元の方のガイドは必須だと思います。

    水がきれすぎて写らないってどんな感じなのでしょう。よく海に浮いた小舟が浮いたように見えるアレみたいなものですか?

    返信削除
    返信
    1. 北海道・斜里の取材でも、カメラマン氏がこうこうこういうロケーションがあったら、とつぶやくと、それにマッチする場所にピンポイントで案内してくれた方がいました。その方も写真コンテストの常連さんでした。

      水が映らなかったというのは、ただの岩場にしか見えなかったという感じです。しかも、ここで三脚が倒れ、カメラをダメにしてしまい、踏んだり蹴ったりの撮影になりました。

      削除

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