原始的な大自然を満喫する旅 - 釧路湿原

シラルトロ湖
シラルトロ湖

釧路湿原は南北約36km、東西約25km、面積約1万8290haで、日本の全湿原面積の6割を占めています。湿原には特別天然記念物のタンチョウや、氷河期の遺存種であるキタサンショウウオ、日本最大の淡水魚で幻の魚と呼ばれるイトウなどが生息し、貴重な野生生物の宝庫となっています。

1980年には湿原の中心部7863haが水鳥の保護を目的としたラムサール条約の登録湿地となり、また87年には国立公園の指定を受けています(国立公園の面積は2万8788ha:環境省)。今や道東指折りの定番観光地の一つで、年間を通して約50万人の観光客が訪れます。

湿原の8割はヨシ、スゲ草原とハンノキに代表される低層湿原で、その景観は、さながらアフリカのサバンナを思わせます。また、平均3~10mという標高にもかかわらず、一部に高山植物が美しい高層湿原や、低層湿原が高層湿原に移行する途中のヌマガヤ湿原なども見られ、まるで湿原のサンプルのような珍しい構成となっています。

この湿原を滋養するのが釧路川で、屈斜路湖に源を発し、湿原に入ると東西からの支流を次々に集め、湿原の東縁に沿って蛇行しながら南流します。湿原を眺望するには、釧路町の細岡展望台からがお薦め。雄阿寒岳と雌阿寒岳を背景に釧路湿原の中を釧路川が蛇行している有名な風景を楽しむことが出来る釧路湿原随一の絶景ポイントです。

達古武湖
夕焼けの達古武湖

特に湿原越しに夕日が落ちていく様は極めつけ。秋には、黄金色に染まったヨシの穂が夕日を浴びてきらきらと輝き、蛇行する川が朱に染まって美しい姿を見せます。

細岡大観望とも呼ばれる展望台は、釧網本線・釧路湿原駅から約250mとアクセス抜群。釧路駅から釧路湿原駅まで約30分、また車でも約24km、35分程度で展望台へ着くことが出来るので、手始めにこの絶景ポイントを見ておく方がいいと思います。

釧路湿原駅の次の駅は細岡。駅を降りると目の前に釧路川の本流があります。ここは達古武湖との接点で、湿原の中での釣りの名所となっています。釣り師憧れのイトウを始め、アメマス、カラフトマスなど、春から秋まで竿に豪快な手応えを与えてくれるそうです。また冬には結氷し、ワカサギ釣りでにぎわいます。

取材に行った当時、達古武湖の岸辺に1軒の家があり、主の田中直吉さんが、近くで黒牛を放牧するかたわらコイやワカサギなどを捕っていました。また、釧路湿原を流れる釧路川では、秋、遡上してくるサケの捕獲場が設けられ、採卵していました。

遠くから眺めると、人間と隔絶した大自然という感じを与える釧路湿原ですが、近寄って見ると、このように人の息吹、生活というものが垣間見えてきます。釧路湿原はタンチョウやエゾシカなどの鳥獣ばかりでなく、人間にもまた、豊かな自然の恵みを分け与えてくれているのです。


達古武湖はまた、美しい夕日が眺められる場所としても知られます。細岡展望台から車で3kmほどなので、展望台での夕景を早めに切り上げれば、日が沈んだ後のあかね色に染まった空と湖を目にすることが出来るでしょう。

釧路湿原三湖の一番南にある達古武湖から、次の塘路湖までは約12km、車で10分強の距離。釧網本線・塘路駅の少し先には、国道391号と枝分かれする道道1060号(クチョロ原野塘路線)があります。この道は、釧路湿原の中を走る唯一の道路なので、時間があれば、ぜひ走ってみることをお薦めします。※今年3月の冠水災害により二本松橋が損壊し、一部区間(塘路~コッタロ湿原展望台)が通行止めとなっています。 コッタロ湿原展望台へは、塘路の15kmほど先から道道243号(阿寒・標茶線)を経由する迂回路を利用する必要があるようです。

一方、釧網本線の場合は細岡駅の次が、塘路駅になります。最近は塘路湖を中心とした観光開発が進み、トロッコ列車「くしろ湿原ノロッコ号」が釧路駅から、この塘路駅まで運行しています。ちなみに冬季はSL冬の湿原号が、塘路駅の二つ先の標茶駅まで運転されます。

塘路駅と標茶駅の間にあるのは、「タンチョウの来る駅」として知られる茅沼駅です。この三つの駅は、標茶町にあります。標茶町は、日本全国の町村で、6番目に広い町で、町の南北を釧路川が流れ、川に沿って釧網本線、国道391号が通っています。釧路湿原の総面積のうち標茶町が約65%を占めており、その分、見どころも多くなっています。

茅沼駅

茅沼駅もそうですし、その近くにあるシラルトロ湖、そして先の塘路湖、コッタロ湿原などが、有名です。

このうち茅沼駅については、『標茶町史』に次のように書かれています。
「昭和39年冬、冷害によってツルのエサが不足し、付近の畑を荒らすようになると、ツルとの共栄共存を図ろうと釧路鉄道管理局有志によるカンパが集まり、茅沼駅に届けられた。更に、標茶町や釧路地方教育局、またこれを知った一般の人々による支援の輪が広がり、同駅の駅員による餌付けが始まった」

こうして、ホームの南端近くに設けられたえさ場に、タンチョウが集まるようになりました。そして、タンチョウへの給餌は代々の駅員に引き継がれ、1986(昭和61)年に無人駅化された後は、駅近くの住民が給餌を担っています。

シラルトロ湖は茅沼駅から1kmほど南にあります。湖畔には茅沼温泉「憩の家 かや沼」があり、指定管理者として標茶町観光開発公社が運営していましたが、昨年3月に同公社が破産し、現在は施設も閉鎖されているそうです。実は私もここに宿泊して、シラルトロ湖の壮大な日の出と朝霧を撮ったのですが、宿がないと、早朝の撮影はだいぶ厳しくなってしまいますね。

コッタロ湿原
コッタロ湿原

シラルトロ湖の西にあるコッタロ湿原は、釧路湿原に隣接する湿原です。コッタロとはアイヌ語で「水が湧く所」という意味で、原始的な自然を感じさせてくれる湿原です。釧路湿原ではない上、釧網本線の駅や国道391号からは外れているので、観光客はあまり訪れない穴場スポットになっています。また、タンチョウの営巣地としても知られ、私が訪問した時期には、番のタンチョウが子ども連れで仲良く飛んでいる姿が見られました。

コッタロ湿原には、道道沿いに三つの展望台があるらしいのですが、私は第一展望台しか行ったことがありません。第一展望台は、小山の中腹に展望デッキがあり、少し高い位置から湿原を望めるので、いい撮影ポイントにもなっています。

コッタロ湿原の先は、湿原の中を突っ切って、鶴居村へ出ます。鶴居のタンチョウサンクチュアリを見学して、最後に釧路市湿原展望台まで行けば、釧路湿原をほぼ1周したことになります。

コメント

  1. 北海道って、どうしてこんなにキレイに空が焼けるのてしょうね。やはり緯度が関係?空気がキレイから。心和みます。

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    1. やはりそうなんでしょうね。少し前に、大気汚染が原因で夕焼けがきれいになっているということを言う人がいましたが、完全に俗説らしいですね。空気中にちりがあると、より多くの光が吸収されるので、色が少なくなるようです。

      削除
  2. 原始的な風景に出会うと、なぜかしら緊張感を感じさせられます。
    どうやって、この地で生きながらえられるかと、つい考えてしまいます。
    変態ですね。

    返信削除

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