瀬となり淵となって流れる奥入瀬の渓流美

奥入瀬渓流

奥入瀬川は十和田湖の水が流れ出るただ一本の川。太平洋に注ぐまで、全長67kmをゆるやかに流れます。詩人であり、紀行文家であった大町桂月が、「住まば日の本 遊ばば十和田 歩きゃ奥入瀬三里半」とうたった奥入瀬は、そのうち十和田湖東岸の子ノロから、蔦川と合流する焼山までの渓流14kmを指します。

桂月が十和田を訪れるきっかけは、当時在籍していた雑誌『太陽』に掲載する紀行文のためでした。桂月は明治41年8月に十和田を訪れ、十和田湖と奥入瀬をくまなく歩き、その魅力を『太陽』に発表しました。

『太陽』は明治28(1895)年に創刊された日本初の総合雑誌で、当時のオピニオンリーダーとしての役割を担っていました。そこに発表された紀行文「奥羽一周記」は、十和田、奥入瀬を広く世に知らせるきっかけとなりました。

奥入瀬渓流

各地を旅した桂月ですが、十和田湖奥入瀬と蔦温泉をことのほか愛し、その後も度々訪問。ついには本籍を移して定住してしまいます。そして自然と酒を愛でながら歌作にいそしみ、大正14年、この地で57年の生涯を閉じました。

その桂月が、奥入瀬を描いた文の中に、次のような一文があります。

「・・・この渓流は、他には見難き風致を有す。湖口より蔦川を入るまで凡そ三里、島多し。みな木を帯ぷ。巖の水中に立てるものも多し。それもみな木を帯ぶ。これ奥入瀬渓流の特色也。・・・」

奥入瀬渓流

奥入瀬は、湖によって洪水が自然に調節され、流量が安定しています。更に渓流とはいえ、70mにつき1mというゆるやかな勾配の中を流れています。そのため、川の中の小さな岩や倒木にも、苔や灌木が生えています。清らかな水に加え、こうした岩を覆う深緑色の苔やその上の灌木が、奥入瀬を更に美しく見せているのです。

十和田湖樹海のうっそうとした木々と渓流、岩、滝が次々と織りなす風景は、庭園の趣さえ感じさせます。5月の新緑と10月中旬の紅葉期が特に美しく、多くの観光客を引きつけ、魅了します。

阿修羅の流れ
奥入瀬観光は、車の中からでも容易に景色が楽しめます。が、やはり歩いて探勝するのが一番。渓流浴いには遊歩道が整備されており、車でポイントだけを見て回ったのでは気がつかない、さまざまな自然の表情に巡り合えます。

ただ、全部歩くと約5時間の行程となるので、途中の石ケ戸から子ノロまで約9km、3時間のコースが一般的。石ケ戸には休憩所があり、車も置けるようになっています。

石ケ戸の少し下流の三乱の流れ(さみだれのながれ)は、ソスペ川が奥入瀬川に合流する地点で、水量も多く、その名にふさわしい流れを見せています。三乱の流れと石ケ戸の間は、勢いのある水流と苔むした岩など、実に奥入瀬らしい風景が展開しているので、先は長いからとはしょらず、しっかり見ておきたいところです。新緑の頃は、川の中の島にツツジが咲き、彩りを添えます。

石ケ戸の先は瀬となり、流れはややゆるみます。その後、いったん国道を横断して馬門橋を渡った辺りから、千変万化の流れや奥入瀬川の両岸から落ちるいくつもの滝が見えてきます。

最初のハイライトは阿修羅の流れ。奥入瀬渓流を代表するポイントです。流れは清流のイメージを吹き飛ばすほど力強く、まるで緑の岩を削るような、まさに阿修羅の激しさを感じさせます。

双白髪の滝
その先は昭和池、飛金の流れ、千筋の滝雲井の滝双竜ノ滝、白銀の流れ、白布ノ滝と、景勝が続きます。雲井の滝は落差25mの水量豊かな滝。近くにバス停があるので、体力に自信のない方は次の雲井林道までバスで行ってもいいと思います。

雲井林道のバス停から先は、渓流の両岸に崖が迫り、いくつもの滝が連続して流れ落ちています。別名瀑布街道と呼ばれるほどで、玉簾の滝白絹の滝不老の滝白糸の滝姉妹の滝双白髪の滝九段の滝などが、右に左に見えてきます。

玉簾の滝は岩肌を玉簾をかけたように滑り落ち、清涼感満点。白絹の滝と白糸の滝は、共に遊歩道の対岸に落ちる滝。深い森を割るように、白い流れが緑に映えています。双白髪の滝は、黒い岩肌をなめるように白い滝が落ちています。切りたった岩壁と、細い流れが絶妙のハーモニーを見せる滝です。この辺りは川幅もやや広く、浅瀬が多いため、水の清らかさが最も分かりやすい場所でもあります。

九段の滝を対岸に望んでしばらく行くと、幅20m、高さ7mの銚子大滝が見えてきます。奥入瀬川本流にかかる唯一の滝で、奥入瀬を遡上して十和田湖に入ろうとする魚たちの、行く手を阻む魚止の滝とされています。玉簾の滝から銚子大滝までは2.3km。銚子大滝から子ノロまでは1.6kmの行程。

銚子大滝の少し先には百両橋という名の橋があります。橋の右側には五両の滝、千両岩があり、そこを流れる万両の流れ。合わせて一万一千百五両を眺めた後は、あとひと息で十和田湖です。

奥入瀬渓流

※石ケ戸から奥入瀬川をしばらく下った焼山からは、八甲田山を経て青森市へ国道が通じ、一帯には温泉が点在します。ブナの原生林に囲まれて大町桂月が晩年を過ごした蔦温泉、日本三大秘湯の一つとされる谷地温泉、八甲田の自然に抱かれた猿倉温泉、そして広々とした「千人風呂」で知られる酸ケ湯温泉など、いずれも古くからの湯治場らしい趣がある宿です。

奥入瀬

十和田市観光情報:https://www.towada.travel/ja/index

コメント

  1. とうとう、ようやく、ファアナリー 私が行ったことがある場所となりました。

    ただ三沢からレンタカーを借り、奥入瀬から十和田湖まで走ったためゆっくり奥入瀬渓流を満喫しませんでした。

    もしチャンスがあれば、3時間コースに行きたいです。

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    1. 今日のテレビで、星野リゾートが新コロの影響で都内での需要がなくなったオープンエアの2階建てバスを奥入瀬に回しているのを見ました。でも、やはり歩いた方が楽しめると思います。

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    2. 神戸にも二階建てのオープンバスがはしってましたが、運行中止になったようです。

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