民謡のある風景 - 生きる重さ支えて唄が広がる(富山県 越中おわら節)


富山平野の南端に位置する八尾(富山市)は、その大半が丘陵地です。16世紀半ばからは浄土真宗の聞名寺の門前町として栄え、各種の産業もここで生まれました。が、この町を有名にしたのは、何と言っても、毎年9月に行われる「風の盆」だと言ってもいいでしょう。その盆踊り行事の間中、八尾は『越中おわら節』一色に塗りつぶされます。

 ♪(前囃子)唄われよ わしゃ囃す
  (本 唄)きたる春風 エー氷が解ける
       キタサノサーアー ドッコイサノサッサ
       うれしや気ままに
       オワラ開く梅

唄の起源は不明です。北九州の「ハイヤ節」系の舟唄が、神通川を上って八尾に入ったのではないかと言われていますが、地元では、寛永年間(1624 - 44)に生まれたと見ています。

何よりも特徴的なのは、唄の伴奏に胡弓が使われていることで、むせぶように嫋々と弾き流す調べが、哀切感を高めます。長谷川伸の名作『一本刀土俵入り』では、この『越中おわら節』が実に効果的に使われています。長谷川伸は、女主人公お蔦を「越中富山から南へ六里山の中」の生まれとし、主人公茂兵衛とお蔦の出会いの中でこの唄を唄わせています。女の望郷の思いがそれだけで伝わってきます。それほどにもこの唄は哀愁を帯びています。

『越中おわら節』を唄い流す「風の盆」は、1702(元禄15)年に始まったと言われます。その年の孟蘭盆に、初めて三味線、太鼓、胡弓などの伴奏で流し踊りが行われ、それが変わりなく伝承されて、明治になってからは「風の盆」という名称も定まりました。大正年間には、踊りも今の形に整えられ、曲調も、江尻豊治が中心になって、昭和初期にはまとめ上げられたといいます。

生きる重さをしたたかに支えてくれる「風の盆」に、引き寄せられる若者がひきもきりません。『越中おわら節』の功徳と言うべきでしょうか。 

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