民謡のある風景 - 北方風土の年輪刻んだ名歌(岩手県 南部牛追唄)
北は厳寒の最中、雪におおわれる季節。盛岡辺りでは、1月や2月の平均気温が氷点下に下がります。寒いのは人間だけではありません。南部駒や牛たちもこの寒さに耐えます。
日本で飼われている牛の数は、およそ400万頭ばかり。北海道が一番多く、鹿児島、宮崎、岩手の順でこれに続きます。
今、牛も乳用と肉用のために飼われていますが、昔は重要な交通手段でした。特に岩手を中心とした南部地方は、山坂が多いため、スピードこそのろいものの、力がある牛の方が重宝がられ、荷を運ぶ主役でした。『南部牛追唄』は、牛に荷をつけ道中する人々の間で唄われたといいます。
♪田舎なれども サアーハエー
南部の国はよ (ハーラヨー)
西も東も サアーハエー
金の山 コーラ サンサエー
(ハーラヨー パパパパー)
囃し言葉の「パパパパー」は、牛に対する掛け声です。時には一人で5、6頭の牛に荷をつけ、90cmほどの狭い山道も通ったから、牛方も声を掛けて、慎重に歩を進めました。離し言葉はその名残りで、この唄が舞台などで唄われ出した頃は、青竹で拍子をとり、それで床を叩きながら唄ったといいます。もちろん、尺八などの伴奏もありませんでしたが、節回しは今よりも歯切れがよくて、道中唄の雰囲気がより強かったといいます。
もともと、牛追唄は放牧唄なのですが、ここで言われている牛追唄は、馬方節に対する牛方節で、二つの名称が混用されるところから『南部牛追唄』となったものです。お隣の青森では、似た節回しの唄が『南部牛方節』と呼ばれています。同じ南部でも、九戸牛追唄と沢内牛追唄があって、よく耳にするのは沢内牛追唄の方ですが、どちらも風土の年輪を刻み込んだ名歌と言えるでしょう。
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