北陸新幹線開業をきっかけに始まった「くろワン・プロジェクト」
北陸新幹線は、東京から埼玉、群馬、長野、新潟を経て、富山、石川をつなぎます。北陸新幹線の構想は、東海道新幹線開業の翌年、1965年に金沢市で開催された地方公聴会で発表されたそうです。構想自体は、かなり以前からあったのですが、実際に開業したのは、それから50年後の2015年になってからでした。
昨日の記事(糸魚川駅北大火からの復興)で書いた糸魚川も、その停車駅の一つですが、東京から金沢方面へ向かう下りの新幹線では、次が今日の記事、黒部市(黒部宇奈月温泉駅)となります。黒部宇奈月温泉駅は当初、82年に北陸新幹線富山県東部駅を黒部市の舌山付近に建設する計画が発表され、93年になって現在地に「新黒部駅(仮称)」を設置することが決定。そして13年にJR西日本から、駅名を「黒部宇奈月温泉駅」とすることが正式に発表されました。その一方、黒部市では、駅の建物を始め新駅周辺の整備構想について、市民からの提言を得るなどの施策を展開しました。駅名候補の選定や駅周辺の整備に関して、提言の取りまとめを依頼されたのは、97年に誕生した「黒部まちづくり協議会」でした。その協議会で、新幹線市民ワークショップの2代目リーダーを務めた菅野寛二さんに、お話を伺ったことがあります。
ワークショップでは、駅舎を全て木で作ろうとかガラス張りにしようとか、それこそさまざまな意見が出たそうです。その中で、無料の駐車場を設けること(500台)や、ロータリーには一般車は入れずバスやタクシーのみ乗り入れが出来るようにするなどの提言は、そのまま生かされました。ただ、議論の中で、最も大きな課題とされたのが、二次交通の整備でした。
新幹線駅が開業しても、その先のアクセスが無ければ、乗降客の利便性が悪く、当然ながら利用客も少なくなるだろうとの考えでした。そこで目を付けたのが、新駅が開業する付近を通る富山地方鉄道(地鉄)でした。これを受け、地鉄では新幹線の新駅から500mほどの所にある舌山駅を廃止し、新幹線駅の前に新駅を作る構想を打ち出しました。しかし、通学など普段から駅を使う地元の人たちから、舌山駅存続の要望があり、舌山駅も存続しながら新駅を設けることになりました。
こうして、最初は新幹線絡みの話として始まったワークショップでしたが、活動の中で地元の生活に密着した鉄道としての役割を再認識し、そこにスポットを当てる動きが副次的に生まれました。そして官民一体となったディスカッションを重ねる中、鉄道マニアのメンバーから、ある鉄道会社がワンコインで1日乗り放題の切符を発売しているという話題が出されました。
菅野さんは、最初、ワンコインと聞いて10円とか100円が思い浮かび、ピンとこなかったそうですが、500円で乗り放題という話を聞いて「ああ、そうか」と(笑)。そこで早速、地鉄と交渉し、07年から「黒部ワンコイン・プロジェクト」を立ち上げ、春と秋の年に2回、土日限定で黒部市内の地鉄16駅(電鉄石田駅〜宇奈月温泉駅)とバス(新幹線市街地線及び生地循環線)は1日乗り降り自由というチケット「くろワンきっぷ」を発売することになりました。
その後、地元の人に関心を持ってもらおうと、住民やボランティアと一緒に、地鉄の無人駅で駅舎や待合所のペンキを塗り直す「ペイント・ラッピング」事業を実施。栃屋駅では、地元の人たちから、田んぼに囲まれた駅なので「カエル色」にしようというユニークな案があり、鮮やかなグリーンに塗り替えたそうです。また、駅を拠点にした町歩きなど、「くろワン」に合わせて、さまざまなイベントも実施されるようになり、地域の活性化にも役立っているようです。それらが評価され、14年には総務省の「ふるさとづくり大賞」を受賞しています。
「くろワンきっぷ」は今年で15年目を迎え、昨秋で第30回を数えました。地鉄によると、1日100人が採算ベースということですが、これまでは採算ベースの倍は乗車しているとのことです。
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